*はじまりの一週間(四)
翌日も2人は共に仕事をこなしていた。
『んんっ…』
ずっと机に向かっているせいか、どうしても体が固まってしまう。
それをほぐすために琴音が伸びをすると、鬼灯が口を開いた。
「そろそろ休憩にしましょうか。」
『あ、はい。』
琴音は立ち上がると、"お茶いれてきます"と部屋を出た。
少しすると、お茶と共に茶菓子を盆にのせた琴音が戻ってきた。
『どうぞ。』
「ありがとうございます。」
お茶を飲みながら、いつものように他愛もない話をする。
そこで、ふと鬼灯は昨日聞こうと思っていたことを思いだした。
「そう言えば、なぜ働く期間が1週間だけなんですか?」
『え…?』
「あなたは優秀でとても助かっていますから、残念だなと思いまして。」
淡々と述べる鬼灯に"ありがとうございます"と苦笑しつつ、琴音は少しうつ向く。
『実は私……結婚するんです。』
「え……」
予想していなかった言葉に、鬼灯は目を見開く。
しかし、慌てて"おめでとうございます"と告げると、琴音は"ありがとうございます"と微笑んだ。
『それで、その前に母に"働いて世間を知りなさい"と言われまして。 母の知り合いである閻魔様のもとで働かせていただくことになったんです。』
「なるほど…そうだったんですね。」
しかし、1つ疑問が浮かぶ。
「あの、失礼ですがお母様というのは…実のお母様なのですか?」
琴音は元は人だったのだから、鬼の親はいないはず。
それとも一緒に鬼になってしまったのだろうか…と思いつつ、琴音を見つめると、彼女は目を丸くする。
『いえ、母親代わりになってくれた方なので血縁関係はありません。けど…どうしてそれを…?』
「あぁ、すみません。閻魔大王にあなたの昔のことを少し聞きまして。」
少し気まずそうに言う鬼灯に琴音は納得したように笑った。
『そうだったんですね。』
「すみません、勝手に。」
『いえ、お気になさらないでください。』
別段、気にしている様子もなかったため、鬼灯はほっと安堵した。
「ところで、お相手の方はどんな方なんですか?」
『えっと…すごく優しそうな方でした。』
「優しそう?」
『はい。あ、すみません。お見合いみたいなものなので、あまりまだその方のことを知らないんです。』
「そうなんですか?」
てっきり想い人と結婚するんだとばかり思っていた鬼灯は驚きの表情を見せる。
『でも、母の知り合いの方なので、とても素敵な方なんだと思います。』
まだよく知らぬ結婚相手を想いながら、笑みを浮かべる琴音に鬼灯はそれ以上は何も聞けず、黙り込んだ。
と、同時に何かモヤモヤとしたものが胸のうちに広がるのを感じたのだった。
To be continued…
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