精神的運動会
「では、よろしくお願いいたします。」
「「心得たわ!ねえ!」」
「あとは…」
言いながら鬼灯はちらりと後ろを振り返り、準備の進み具合を見る。
「今年こそは大人しくしていてくれますかね…。」
ぽつりと呟きながら、鬼灯は愛する妻の姿を思い浮かべたのだった。
*
「すごい数の鬼ですね〜!」
「ま、地獄の運動会だからね。」
感嘆の声をあげる桃太郎にそう言いながら、白澤は抱き抱えていた一羽のうさぎを撫でる。
「白澤様は毎年参加してるんですか?」
「救護担当だよ。毎年協力してるんだぁ。あ!お香ちゃ〜ん!桃タロー君、この子お願いね。」
「え!?ちょっ……」
桃太郎が止めるのも聞かず、ひょいとうさぎを渡すと、白澤はお香の元へ走り寄っていった。
「はぁ…まったくあの人は本当にどうしようもないですね…。」
桃太郎は渡されたうさぎをそっと撫でると、救護のテントへと向かった。
*
開会の宣言を終えた閻魔大王は、本部席の鬼灯の隣に腰かけた。
「さぁ〜て、あとはゆっくり観戦しよう。大会委員長は君だっけ?」
「はい。まぁ、この運動会も今年で100回目。一工夫加えるのに苦労しました。」
「本当!?」
期待のこもった眼差しを鬼灯に向ける閻魔大王。
「スポーツは筋肉と思っている方も多いのでそこから見直してみました。」
「どんなのだろ?楽しみだねぇ〜。」
すると、隣の救護班のテントから一羽のうさぎがやって来た。
「ん?そのバンダナは…救護班ですね。どうしました?」
鬼灯が声をかけるとうさぎはぴょんと跳ね、鬼灯の膝の上に座った。
「困りましたね…。」
ぽつりと呟くも、うさぎが降りる気配は無い。
「なつかれてるねぇ、鬼灯君。」
「はぁ…仕方ないですね…。」
(あとで返しに行きますか…。)
そう考えた鬼灯は、そっと優しくうさぎを撫でたのだった。
*
" 第一種目借り物競争!"という鬼灯のアナウンスで獄卒たちは準備運動を始める。
「あぁ、そうだ。おとなしくしていてくださいね。」
言いながら鬼灯がうさぎの耳を塞ぐと、合図と共にバズーカが撃たれた。
「どうでもいいけど何?あのスタート合図。」
「なまぬるいライカンピストルはやめてバズーカにしました。迫力もあるでしょ?」
「うん。いや、あのバズーカ撃った子がすごいよね。」
バズーカを撃った獄卒を見ながら閻魔大王が言うと、鬼灯は拡声器を手に取った。
「おやおや…音にびっくりして脱落ですか?獄卒がそんなことでどうするんですか。」
「えぇっ!!厳しいなぁこの大会!君に任せて大丈夫かな?」
自身を見る閻魔大王を鬼灯は睨み付ける。
「ここは地獄なんですよ?この機会にぬるいヤツはたたき直します!」
*
「よ〜し!一番乗りだ!」
一番にお題のある場所までたどり着いた唐瓜は紙を拾いあげる。
「お題は……」
中を開くと、"好きな異性"の文字が。
(公開処刑だーっ!!)
思わず心の中で叫ぶ唐瓜。
その後ろで他の獄卒たちもお題に文句をこぼしていると、拡声器を片手に鬼灯が声をかける。
「今年は全体を通して、精神的負担が伴います。さ、張り切ってどうぞ。」
「張り切れません!」
「頑張って〜!!新卒ちゃん〜!!」
「!!」
唐瓜が頬を染めて振り返ると、そこにはポンポンを持ち、応援しているお香の姿があった。
「ほら早く早く〜!行っちゃうわよ!」
「お香さん…」
思わずお題を持つ手が震える唐瓜。
「行っちゃう…!」
ごくりと唾を飲み込む唐瓜に閻魔大王は口を開く。
「分かりやすいねあの子。」
「言っちゃいなさいよ!唐瓜さん。そして玉砕すればいい。」
「ひぃーっ!!鬼の中の鬼ぃーっ!!」
すると、鬼灯の膝の上にいたうさぎがぴょこりと跳ねた。
「ほら、うさぎも応援しているようですよ。」
「いや、うさぎ関係ないですよね!?」
「若いうちのこういう刺激が、脳の活性化につながるのです。」
「脳は活性化されても、心は崩壊寸前でーすっ!!」
そうこうしている内に、茄子がゴールしてしまい、借り物は終了した。
「大丈夫?これ。明日からの仕事に支障出ないかなぁ…。」
「地獄には動物も多くいますので今年は彼らによる種目も作りました。」
「おお。それは楽しみだね。」
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