龍虎の二重奏
「あっ、そうです。馬頭の蹄、どこに置きましたっけ?」
「「「めず?」」」
鍋を作っていた鬼灯の言葉に手伝いをしていたシロ、柿助、ルリオは首をかしげる。
「馬の頭と書いて"馬頭"。地獄の門番の一人です。その蹄をたまに削らせてもらうのですが…ストックがなくなってますねぇ。取りに行かないと。」
「俺も一緒に行く!」
きらきらと目を輝かせながら、シロは鬼灯を見つめる。
「では、お二人は鍋が焦げないよう、ここにいていただけますか?」
「はい!」
「分かりました。」
柿助とルリオがこくり頷くと、鬼灯はシロをつれて外へ出た。
*
「うわぁ〜何あれ…?うぅ〜…。」
シロは門の中を歩きながら、柱についているぎょろぎょろと動く目に怯えていた。
しかしぴたりと足を止め、匂いを嗅ぐと嬉しそうに表情を輝かせる。
見ると、前から白澤と桃太郎、そして琴音が歩いてきていた。
「桃太郎〜!」
桃太郎に駆け寄るシロ。
「シロー!あはははっ、元気だったか〜?シロ。」
桃太郎に頭を撫でられ、シロは嬉しそうにうん、と返事をすると、琴音に視線を移した。
「あれ?琴音様も一緒だったんだね。」
『はい、少し白澤様に用事がありまして。』
答えながら琴音がシロの頭を撫でると、鬼灯は構え始めた。
「ん?」
そして白澤が鬼灯に視線を移した瞬間――
「そいや!」
白澤の顔を思いっきり殴り飛ばした。
「ぐわっ!げほっ!げほっ!」
倒れた白澤を見て鬼灯は"ふぅ〜"と息を吐く。
その様子に桃太郎とシロは口を開けて固まり、琴音も目を丸くした。
「一本。」
すっきりしたように呟く鬼灯に白澤は詰め寄る。
「なんの挨拶もなくそれかこのやろうっ!!」
「どうせあなたと会ったら最後。こうなるんですから、先に一発かましとこうと思って。」
「80年代のヤンキーか!お前は!」
「「なんでわざわざからむんだろう…。」」
相変わらずな2人に桃太郎とシロは呆れたように呟く。
「くっそ…!!琴音ちゃ〜ん!!痛いから癒して〜っ!!」
琴音にぎゅっと抱きつく白澤を見て、鬼灯はまた殴り倒した。
「ぐはっ…!!2回も殴んじゃねーよ!!」
「自業自得です!そんなことより、なぜあなたがうちの妻と一緒にいるんですか!!」
「別に何だっていいだろ!?お前には関係無いし!」
「あります!大ありです!琴音は私の妻ですよ!」
『あ、あの、鬼灯様っ!今日は白澤様に花の種を頂きにいってたんです…!』
いつもの喧嘩が始まってしまった2人を止めるべく、琴音が慌てて説明する。
「花の種…?あぁ、いつものやつですか。」
『はい』
花が好きな琴音は時々、白澤に花の種を貰いにいくことがあった。
けれどそれは大抵、鬼灯の付き添いがあってのことだったため、1人で行ってしまった琴音に鬼灯はため息をつく。
「よいですか、琴音。この男の元へ1人で行ってはいけませんと何度も言ったでしょう。」
『はい、すみません…。けど、鬼灯様はいつもお忙しいですし、邪魔をしたくなくて…。』
「琴音……」
いつも自分を一番に考え、気遣ってくれる琴音の優しさに彼女を愛する気持ちがますます大きくなる。
鬼灯はたまらず琴音を抱き寄せた。
「私のことを想って行動してくださったことはとても嬉しいです。けれど、この淫獣・白豚の元へ1人で行くのは大変危険です。ですから、これからは必ず私に連絡してくださいね?」
『はい…すみませんでした…。』
素直に謝る琴音の頭を愛おしげに優しく撫でる鬼灯を、白澤はキッと睨み付ける。
「ったく…さっきから聞いてれば淫獣だの白豚だの好き勝手言いやがって!しかも、イチャイチャしてるところ見せつけてくるし…胸くそが悪いよ!さっさと用済ませて地獄名物の花街にでも行こう!」
「そんな所があるんすか?」
「あるよ〜。そりゃもうパッツンパッツンのおねえちゃんがいっぱいの天国みたいな地獄が。」
手をわきわにと動かしながら、楽しげに言う白澤に桃太郎は"へえ〜"と返す。
「あなた、女性なら手当たりしだいですか?」
呆れたように言う鬼灯に白澤は肩をすくめる。
「人聞きが悪いな。ストライクゾーンが広大だと言ってよ。まぁ、乳はあるに越したこたぁないけどね。ふふふっ。」
「昔は微乳の方が美人とされていましたよ。」
「どっちも好きだね。おっきな乳は包まれたい。ちっさな乳は包んであげたい。」
「ほらよ。包まれろ。」
いつの間にやら鬼灯の手には鎖、そして背後には大きな牛がいた。
「モオォ〜っ!!」
牛は鳴き声をあげると、白澤に襲いかかった。
「うわぁぁーっ!!!」
「見事な巨乳のうえ、4つもありますよ。」
「多けりゃいいってもんじゃない!」
((大きな牛さんですね…))
「モォ〜モォ〜!」
「彼女、立派な女性だけど反芻するだろ!」
「何を生意気な。偶蹄類同士仲よくなさい。」
「確かに白澤様は、牛寄りの神獣ですもんね。」
「僕を分類すんなぁっ!」
足を止めて叫ぶ白澤に牛は後ろから抱きつくと、力いっぱい抱きしめた。
「うっ!ぐっ…あぁっ!」
「異性が求める"包容力・巨乳・豊満・母のようでおっとり"。一般的な理想の女性像をまとめると牛になると思うんです。」
白澤が骨がギシギシと音を立てるほど抱きしめられている間に鬼灯は解説をはじめ、桃太郎は"なるほど"とメモをとった。
『鬼灯様も…そのような方の方がよいのですか…?』
不安げに自身を見つめてくる琴音に鬼灯は淡々と答える。
「いいえ、私の好きなタイプは琴音、あなたですよ。」
『鬼灯様…』
琴音はほっと安堵すると、"嬉しいです"と微笑んだ。
「曲解だ…!!」
「モォ〜。」
「うぐっ!あっ…!」
鬼灯と琴音がいちゃついている間にも、白澤は苦しげに声をあげる。
「なんか変な牛だなぁ…。」
「変も何も彼女が牛頭だからねっ…!」
言い終えると、強い力で抱きしめられていたせいか白澤はおちてしまった。
「なっ!これが牛頭!?」
「"これ"だなんて失礼ね!モォ。」
「しゃべった!」
楽しげに尻尾を振るシロ。
「前からこの人かわいいと思ってたわぁ〜。」
牛頭は愛おしげに白澤に頬ずりした。
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