地獄の沙汰も嫁次第 | ナノ

鬼とパンツとカニ






本日の唐瓜と茄子の仕事は三途の川の清掃。


茄子は歌いながらほうきを掃く。


「履こう〜♪履こう〜♪鬼のパンツ〜♪」

「なぁ、その歌って何だろうな。主旨がよく分かんねぇよなぁ?」

「え?鬼のパンツ製作会社の販促ソングじゃないの?」

「違いますよ。」


茄子が答えた瞬間、鬼灯が2人の会話に入り、否定した。


「あ…」

「さっきから内容が気になって聞いていましたが…おしゃべりしないで仕事してください。」

「ごめんなさい…。」

「申し訳ありません!」


2人は慌てて謝ると、先程の鬼灯の発言に対する疑問を口にした。


「ところで鬼灯様、さっきの"違う"って?」

「あぁ、その歌はですね、元々、南イタリアのカンツォーネで、日本語歌詞は後付けなのです。フニクリフニクラ。」

「あっ!あぁ!知ってる!」


唐瓜が納得したようにポンっと手を叩くと、茄子は「フニクリフニクラ〜♪」と口ずさんだ。


「そのフニクリフニクラは掛け声です。登山鉄道のアピールソングだったらしいですよ。」

「なーんだ。地獄のオリジナルソングじゃなかったんだな。」

「鬼灯様は何でもよく知ってるなぁ。」


尊敬の眼差しを向ける茄子に、鬼灯は手をパンパンと叩く。


「いいからこの先の賽の河原までしっかり大掃除してください。三途の川は現世とあの世の境。言わば地獄の玄関口です。散らかっていては示しがつきません。」

「しっかし…時計がすげー落ちてるんですよね〜。」

「あ!蛇!あれ三途の川の主だよなぁ?」

「はいはい。あとメガネも多いなぁ。」


茄子の言葉を適当に流しつつ、唐瓜はメガネを拾い上げた。


「どちらも遺品でよく一緒に納骨しますからね。」

「すっげーっ!!」

「はいはい!お!ズらっとヅラだらけ!」

「壮観ですね。」


唐瓜は何やら騒いでいる茄子にまたもや適当に相づちを打ちつつ、落ちていたヅラを見て思わずギャグを言った。


「大丈夫かなぁ…。」


一方茄子は、あるものを見ながら1人、ぽつりと呟いていた。








「閻魔大王、三途の川は特に問題ありませんでした。」


掃除から帰ってきた鬼灯は閻魔大王に近づくと、書類を片手に報告する。


「ん?あ、鬼灯君!君に貰ったオーストラリア土産、ちゃんと飾ったよ。」


そう言う閻魔大王の視線の先の柱には、何とも不気味なお面が飾ってあった。


「魔除けだそうです。キレイでしょ?」

「ん〜…ワシ、魔除ける必要ないけどねぇ。あ、そうそう。」


閻魔大王は鬼灯がいる方とは反対側を見ると、にっこりと微笑んだ。


「ほら、鬼灯君、帰ってきたよ。」


すると、閻魔大王の机の影から琴音がおずおずと出てきた。


「!!琴音!」


鬼灯は驚きつつも、妻に駆け寄る。


「あなたはまたこんな所まで来て!」

『だ、だって、鬼灯様、お忙しいでしょうから代わりに金魚草のお世話でもしようかと思って…』


そう言う琴音の手にはかわいらしいじょうろが握られている。


それを見て鬼灯はため息をついた。


(あぁ、もう本当に何て可愛らしい…!!ですがこうも勝手に外出されるのは困ったものですね…。)


「まぁまぁ、いいじゃない鬼灯君。琴音ちゃんは君のためを思って…」

「よくないです!!」

「ひっ!」


鬼灯に睨まれ、閻魔大王は思わず声をあげる。


「もちろん気持ちはこの上なく嬉しいですが、琴音はこんなにも可愛らしいんですよ!?変な男にでも絡まれたりしたらどうするんです!?」


言うなり、鬼灯はぎゅっと琴音を抱き寄せた。


「相変わらず過保護だねぇ…。」

「これぐらい当然ですよ。全く…今回だけですよ。」

『は、はいっ…!!』


("今回だけ"と言いつつ、毎回許してるよなぁ…鬼灯君…。)


するとそこへ、唐瓜と茄子がやってきた。


「「閻魔様ぁ!三途の川の掃除、終わりましたぁ!!」」

「お疲れさま。」

「あ、琴音様こんにちは!」

『こんにちは。』

「え…この美しい方は…?」

「唐瓜は初めてか?鬼灯様の奥様の琴音様だよ。」

「あぁ!あのお噂の!」

『初めまして、琴音です。』


柔らかく微笑む琴音に、唐瓜は緊張しているのか背筋をピンと伸ばす。


「は、初めましてっ!!お、俺、唐瓜です!」

『唐瓜さん、主人がいつもお世話になっております。』

「い、いえ、とんでもないですっ!」

「ところで…」


鬼灯は柱にしがみつき、"慈悲〜っ!!"と蝉のように声をあげている亡者に視線を移した。


「あの亡者は何をしたのですか?随分わめいてますが…。」

「あぁ〜生前、女性の下着を盗み、あまつさえそれを誇らしくかざして捕まった、まぁ変態だね。」

『まぁ。今の現世にはそういう方がいらっしゃるんですね…。』

「その性癖はともかく、窃盗ですね。何が彼をそうさせたのか…。」

「ん〜…ストレス社会の歪みかなぁ。」


鬼灯がうるさい亡者めがけて金棒を投げると、亡者は気絶し、柱から落ちてきた。


『命中しましたね…!鬼灯様、すごいです…!』

「そんなことないですよ。」

「ありがとうございます、鬼灯様!」


獄卒は礼を言うと、亡者を連れていった。


「それにしても…今日はパンツの話ばかりです。」


すると、茄子は「ふんふんふんっ」とリズムを取ると、また鬼のパンツの歌を歌い出した。


「うわ!また歌い出した!自由な奴〜。」

『ふふ、茄子さん、可愛らしいです。』

「えへへ〜」


琴音の言葉に茄子は照れたように笑った。


「あ、それって鬼のパンツ販促ソング?」

「お前もか…。」


閻魔大王の言葉に鬼灯は呆れたように呟く。


「そういや現世には鬼は虎皮パンツ一丁って固定概念ある人、結構いるよねぇ。」

『そうですね…なぜでしょう?』

「パンツが昔、虎皮だったからだと思われます。まぁ、実際は恰好自体はそれぞれなんですがね。」

「ん〜…でも俺、虎皮パンツ一丁っていいと思うんだよな…。」

「えぇ〜!何で?だっせぇじゃんあれ。」

「だってさ、男子がパン一ってことは女子は…こうなる!」


茄子は上も下も虎皮の下着をつけた女の子のイメージ図を浮かばせた。


「「「!!」」」

「おぉ!」

「そりゃ華やかだねぇ!」

「いや、でもその姿は完全に…」


鬼灯の頭には某アニメキャラ、ラ●ちゃんの姿が浮かんだ。


「アウトです!彼女、鬼じゃないですし!それに、そういう恰好はすぐ見飽きてしまうものですよ。」

「琴音様が着ていてもですか?」

「いいえ。琴音は特別ですから。」


茄子の質問に鬼灯がきっぱりと言い切ると、琴音は下着の話をしていることや、特別と言われたことが恥ずかしくなり、うつ向いてしまった。


「そもそもあれってパンツなのかなぁ?」

「腹巻き…だよな。」

『ん〜…あ、パレオとかではないですか?』

「あぁ、それかもですね!鬼〜のパレオはいいパレオ〜♪」

「なんか急にムーディーだなぁ。」



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