地獄の沙汰も嫁次第 | ナノ

いかにして彼らの確執は生まれたか






「はい、どうぞ。白澤さんにお渡しください。」

「はい…」


返事をしてから判の押された書類を受け取りつつ、桃太郎は鬼灯をじっと見つめる。


「どうかしましたか?」


不思議そうな鬼灯の表情に桃太郎は口を開く。


「いえ、あの…鬼灯さんてやっぱり、白澤様に似てますよね。眼が切れ長で――」


桃太郎がそこまで言うと、鬼灯はまさに鬼の形相で彼を睨んだ。


「あ…っ!と、とは言っても、白澤様は女性に対して歯が浮くようなことペロッと言っちゃうんですけどね…。」


桃太郎が弁解しつつ、呆れたように肩をすくめると、鬼灯は後ろの柱に手の甲を思いっきりぶつけた。


「!!」


その行動に桃太郎は一気に表情が青ざめていく。


「申し訳ございません。気にしないでください。」


(あ…痛かったんだ…。)


鬼灯が手をさするのを見て、桃太郎は思わず心の中で呟いた。


すると、そこへ1人の獄卒がやって来た。


「鬼灯様!」

「あぁ、来てくれたんですね。」

「はい。あ、桃太郎さん、こんにちは。」

「こ、こんにちは…。あれ…?お会いしたことありましたっけ?」

「え…?」

「まぁ、この姿じゃ分かりませんよね。今は桃太郎さんだけですから、もういいですよ。」

「はい!」


獄卒は鬼灯の言葉に微笑むと、パンっと手を合わせる。


すると、獄卒の体を煙が包み、中から琴音が現れた。


「え!?あ、琴音さん!?」


驚く桃太郎に鬼灯が説明する。


「実は、琴音には変化の能力があるのですよ。」

「そうだったんですか!すごいですね!でも、どうして変化を?」

「琴音は目立ちますからね。変な男に絡まれたりしては困るので変化させていました。」

「あぁ…なるほど…。」


相変わらずな鬼灯の過保護っぷりに、桃太郎は思わず苦笑いする。


『あ、鬼灯様、これを。』


言いながら、琴音は風呂敷で包まれた箱を鬼灯に差し出した。


「ありがとうございます、琴音。」


鬼灯が包みを受けとると、琴音は嬉しそうに微笑んだが、赤くなっている鬼灯の手を見て表情を歪めた。


「愛妻弁当ですか?いいですね。」

「えぇ。琴音が昨日、作ってくれると言ってくれまして。」

『鬼灯様、その手は…』

「あぁ、先程ぶつけてしまいまして。でも大したことないですよ。」

『でも…すごく痛そうです…。あ!待ってくださいね。』


そう言うと、琴音は持っていた手提げから包帯と塗り薬を取り出した。


そして"失礼します"と鬼灯の手を取ると、塗り薬を塗って包帯を巻いた。


「わざわざありがとうございます。」

『いえ。早く治りますように…。』


小さな両の手で鬼灯の手をそっと握り、琴音は"おまじないです"と微笑む。


その可愛らしい様子に鬼灯も桃太郎もきゅっと胸が締め付けられるような感覚になった。


(はぁ…琴音さんってほんと可愛いなぁ…ってダメダメ!鬼灯さんの奥さんなんだから!)


(さすが私の嫁…!なんて可愛いんでしょう…!)


鬼灯は我慢できず、彼女の腰に手を回して抱き寄せた。


「はぁ…本当にあなたは困った人ですね。これ以上、惚れさせてどうするつもりですか?」

『え…!そ、そんなっ!私だって、日を追うごとに鬼灯様のことを…』

「琴音……」


2人が甘い雰囲気に包まれていく中、桃太郎は困ったように表情を歪ませた。


(ど、どうしよう…。この2人、俺の存在忘れてるよな…。)


「説明しよう!」


すると、どこからともなく閻魔大王が現れた。


「え、閻魔様…!!こんにちはっ!」


(た、助かった〜!)


『こんにちは、閻魔様。』

「こんにちは、2人とも。あ、そうそう!冷徹な鬼灯君も、琴音ちゃんにだけは激甘なのだ。」

「そうですね…。」

「そしてそして!鬼灯君は白澤君に似てると言われると怒るのだ。」

「え…!あ…ごめんなさい…。」

「いや、こちらこそ。」

「他のどんな状況にも鋼の精神なのにこれだけは屈辱でならないらしいのだ。だからワシはこのネタでたま〜に反撃するのだ。」


閻魔大王が言うや否や、鬼灯は持っていたボールペンを投げた。


『!!』

「ボールペンが大理石に刺さった〜;」


顔の横すれすれに刺さったそれに閻魔大王は表情を青ざめさせた。


「それにしても、何でそんなことに…。何かきっかけでも…?」

『私も気になります。』

「琴音さんもご存じないんですか?」

『えぇ。尋ねたこともなかったので。』

「あぁ、あれはもう…千年ぐらい前だったかな…。昔、和漢親善競技大会、まぁオリンピックみたいな大会があってね。乳白色組と赤黒色組に分かれて競技をしていたんだ。」

「あのすみません…なんで白組と黒組じゃないんですか…。」

「さぁ?とにかく2人は審判だったんだ。」

『審判…?代表選手とかではなくてですか?』

「2人とも選手の域を超えててさぁ。白澤君て、あんなへらへらしてるけど、中国じゃ妖怪の長とまで言われてるからね。」

「あれが長では世も末です。」


言いながら鬼灯は刺さっていたボールペンを閻魔大王から受け取り、カチカチと使えるかどうかを確かめる。


「でね、不公平が無いよう、お互いの国から審判を出したわけ。競技は体力や強さを比べる武道系と頭の回転力と判断力を競い合う知恵比べ、そして妖怪による妖術対決だね。」

「楽しそう〜!!」

『はい、見てみたいです。』

「そう言えば、先程から気になっていましたが、琴音さんもご覧になったことがないんですか?」

『えぇ。そもそも私は戦国の世に生きていた身なので、死後500年ほどしか経っていませんよ。』

「え!ということは…」

『ふふ、私、桃太郎さんより年下なんですよ?』

「そうだったんですね!てっきり平安時代あたりの方だとばかり。」

『え?どうしてですか?』

「だって琴音さん綺麗だし、気品もあって、なんかこう…和歌とか詠んでそうなイメージなんですよね〜。」

『ふふ、ありがとうございます。嬉しいです。』


微笑む琴音に、桃太郎はドキリと胸が高鳴った。


しかし、隣から殺気を感じ、ちらりと視線を向けると、こちらを睨んでいる鬼灯の姿が…。


「ひぃっ!!」

「桃太郎さん…私の妻を口説かないでいただけますか…?」

「ちっ、違いますよっ!!ぼ、僕はそんなつもりじゃ…!!」

『そうですよ、鬼灯様。桃太郎さんは誉めてくださっただけです。』


(それを口説くと言うのですが…)


「まぁ、いいです。琴音に免じて許しましょう。」


鬼灯の言葉に、桃太郎はほっと息をついた。



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