▽構って





『はぁ…』


私は目の前の光景に思わずため息を吐いた。


ただいま、マスルールはモルジアナちゃんの稽古中。


その様子をマスルールの彼女である私が見ているのだけど、正直言って暇。


なぜなら、当たり前と言えば当たり前だけど、マスルールがモルジアナちゃんに構ってるから。


モルジアナちゃんのことはシンドリアで出会ってから仲良くなって、健気でかわいくてだいすきになった。


でもそれとこれとは別であって、私は今、モルジアナちゃんに嫉妬している。


((マスルールは私のなのに…))


そんなくだらない事を子供のモルジアナちゃん相手に思ってしまう自分が恥ずかしくて、情けなくて、私はまたため息を吐いた。


するとモルジアナちゃんに



「なまえさん」


と声をかけられた。


『どうしたの?モルジアナちゃん。』

「いえ、あの…先程からため息を吐かれていたので、気になって…。体調でも悪いんですか??」


((こんないい子に対して嫉妬だなんて…))


心配そうに声をかけてくれるモルジアナちゃんに、先程嫉妬していたことを思いだし、更に惨めな気持ちになった。


『大丈夫よ。心配してくれてありがとう。』

「そうですか…。何かあったら言ってくださいね。」


苦笑いで言う私に、モルジアナちゃんは優しくそう言ってくれた。


『うん、ありがとう。』


((ほんと、モルジアナちゃんはいい子だなぁ…。))


「モルジアナ」

「はい!」


マスルールに呼ばれ、モルジアナちゃんは私に軽く会釈すると、マスルールの元へと走って行った。


「今日の稽古はこの辺にしよう。」

「はい、ありがとうございました。」


モルジアナちゃんがこちらにまた走ってきた。


どうやら稽古は終わったらしい。


『お疲れ様!』

「ありがとうございます。では、私は失礼します。」


そう言うとモルジアナちゃんは自室へと帰っていった。


そしてマスルールもこちらへとやってきた。


『お疲れ様…。』

「ん。」


私とマスルールも自室へと戻ろうと歩き出した。









「なまえ」

『………なに。』

「何で怒ってるんだ?」

『……怒ってないよ。』

「怒ってる。」

『怒ってない。』

「怒ってるだろ。」

『もう…怒ってないってば…!』


私が少しきつく言うとマスルールは黙りこんだ。


((あ…少しきつく言い過ぎたかな…。てかなんでこんな態度取っちゃうんだろ…。))


そんなことを考えていると、いつの間にか自室に着いていた。


『じゃあまたね。』


そう言ってドアノブに手をかけると、その手とは反対の手を取られた。


『どうしたの?』

「………話して。」

『え?』

「怒ってる理由…ちゃんと、話して。俺が何かしたんなら、謝るから。」

『……怒ってないよ』


マスルールの真剣な目に私はそう答えた。


「だから…『怒ってるんじゃなくて』」


私はマスルールの言葉を遮って


『嫉妬…してたの』


と続けた。


「!!」


予想外の答えだったのか、私にしか分からない微妙な変化でマスルールは驚いた顔をした。


「嫉妬…?」


分からないといった表情のマスルールに


『そう、嫉妬。モルジアナちゃんに対して…ね…。』


と言うと、マスルールは更に困ったような表情になった。


『だって…ここ最近…ずっとモルジアナちゃんの稽古に付き合って、私に構ってくれなかったでしょ…。だから…その…』


私は一旦そこで言葉を区切った。


「?」


((あぁもうやけくそよっ!!))


『だからっ…寂しかったのっ…!!』


「!!」


自分で言っておきながら、恥ずかしくなり私は

『もう言ったからいいでしょ!じゃあね!!』

と、もう一度ドアノブに手をかけたが、またマスルールによって阻まれた。


『なに…』


"ちゅ"


私は一瞬何が起きたのか理解できず、マスルールにキスされたと気づくのに数秒かかった。


慌ててマスルールの胸を押し返したが、男性で
しかもファナリスであるマスルールの力に勝てるはずもなかった。


そしてマスルールは更に深く口付けた。


『んんっ…ふぁ……はぁ…はぁ…』


長い口づけから解放されたかと思うと


「大丈夫」


とマスルールはおもむろに口を開いた。


『え?』

「俺にはなまえだけだから。だから、心配しなくても…」


マスルールの言葉に私が微笑み


『うん、分かってる。ちょっとだけ羨ましかっただけだから、気にしないで。ありがとう。』


と言うと、マスルールは頷いた。


「でも、明日は稽古はしない。」

『本当に気にしなくていいのよ?』

「そうじゃなくて…」


次の言葉に私は真っ赤になった。


そんな様子を見てマスルールはフッと笑い、私の額に口付けると


「じゃあ、また。」


と言って歩いていってしまった。















"俺がなまえと一緒にいたいんだ"



『ずるいよばか…。』


私は熱くなった頬を押さえながら遠ざかっていく背中に向かって小さく呟いた。



END

     

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