▽夏の始まりと共に




俺にはハルとなまえという幼馴染みがいる。


家が近かったから、すごく仲がよくていつも一緒だった。


小さい頃からそんな調子だったから、ずっとそれが続くんだと思っていた。


けれど――


"なんか、なまえちゃんっていっつも橘くんと七瀬くんといるよねー"


"何で男子とばっかいるのかなー"


中学に上がるとこんな声が聞こえてくるようになった。


俺たちは気にしていなかったし、なまえも最初は気にしていなかった。


けれど気づけば、いつしかなまえは必要以上に俺たちに近づかなくなり、呼び方も名字呼びになった。


俺はずっとなまえが好きだったから、なまえが離れていったことが正直ショックだった。


そんな微妙な距離のまま時が過ぎ、気づけば俺たちは高校生になっていた。


「はぁ〜…」

「真琴、うるさい。」


さっきからため息をついてばかりの俺に痺れを切らしたのか、ハルは明らかに面倒臭そうに顔をしかめる。


「だって…俺、見ちゃったんだよ。」

「何がだ。」

「なまえが…告られてるとこ。」


遡ること数分前。


昼休みになり、購買へ向かおうとした時になまえの姿を見つけた。


「あ、な…」


声をかけようとしたけれど、なまえと同じクラスの男の子と話しているのが見え、足を止めた。


会話はよく聞こえなかったけれど、雰囲気から察するにあれは間違いなく告白だった。


それから逃げるように教室に戻って来て、今に至る。


「なまえ…あの人と付き合うのかな…。」

「さぁな。興味ない。」

「もう〜ハルはなまえが変なやつと付き合っちゃってもいいの!?」

「そうは言ってない。けど、決めるのはなまえだろ。」


確かにその通りだ。


けど、やっぱり気になる。


「はぁ…嫌だな…なまえに恋人ができるの…。」

「そもそもお前がさっさと言わないからダメなんだろ。」

「だ、だって、なんか話しづらくて…。」

「……ヘタレ。」

「ひどいよハル!」


そうこうしている内に昼休みは終わってしまい、授業が始まったけれど俺は集中することができなかった。







放課後になり、俺は用事があると言うハルと別れて帰路についた。


普段なら部活があるが、今日はプールの点検日のため休みだ。


(なんか一人で帰るの久しぶりだな…。)


昔は3人でよく帰ったな…なんて思っていると、前方に見知った後ろ姿を見つけた。


(あれは……)


「なまえ?」


声をかけると、なまえはピクリと肩を震わせ振り返った。


『た、橘くん…。』

「あ、やっぱりなまえだ。今帰り?」

『うん』

「じゃあ、どうせ同じ方向なんだし一緒に帰らない?」

『…そうだね。』


断られなかったことにほっと安堵し、俺はなまえの隣に並ぶ。


「なんか久しぶりだよね。こんな風に一緒に帰るの。」

『そうだね。』

「なまえ、最近どう?元気?」

『うん、まぁ、それなりに。橘くんは?部活…入ってるんだよね?』


"橘くん"


こんなに近くにいるのに、どこかなまえを遠くに感じてしまい、少し寂しくなる。


突然黙り込んだ俺に、なまえは不思議そうに首を傾げる。


『橘くん?どうしたの?』

「あ、いや何でもないよ。えっと、部活は水泳部なんだけど、今日はプールの点検日だから休みなんだ。」

『そうなんだ。』


そこで会話が途切れ、お互い沈黙してしまう。


ハルともこんな風に沈黙になることもあるけれど、昔からそうだったから特に何もかんじない。


けれどなまえとは久々すぎて話すことが思い付かないし、この沈黙がかなり苦痛だ。


(せっかくなまえと2人なんだから、しっかりしろ俺!!)


「え、えーっと…あ、そう言えばなまえ、昼休みに男の子と一緒にいたよね?もしかして告白?」

『え…』


僅かに表情を歪めたなまえに、俺はすぐにしまったと後悔する。


(いきなり何聞いてんだよ俺〜!!)


「あ、え、えっと…」

『…そうだよ。』

「え…?」

『告白…されたの。』


あわあわと慌てる俺になまえは静かに答えた。


「そう…なんだ。」


また少しの沈黙。


(やっぱりそうだったんだ…。なまえ、付き合うのかな…。)


一人で考えたところで、分かるわけもなくなまえにバレないよう小さくため息をつく。


けれど、よくよく考えたらこれはチャンスなんじゃないだろうか。


なまえと2人きりになるなんて、次はいつになるか分からない。


(考えたって仕方ない…よし、聞け!俺!)


ぐっと拳を握りしめ、ちらりとなまえに視線を移す。


「なまえは…その…その人と付き合うの?」


ドキドキと鼓動が速まるのを感じながら、じっとなまえの答えを待つ。


『うん…』


小さく答えたなまえに目を見開くと、なまえは顔をあげて俺を見た。


『…って言ったら、どうする?』

「!!」


真剣な、けれどどこか切なげな目でじっと見つめてくるなまえに俺は思わず反射的に彼女を抱き締めた。


『ちょ、橘くん?どうし、』

「……嫌だ。」

『え…?』

「なまえが他の誰かのものになるなんて、嫌だ…っ!」

『!!』


(そうだ…ちゃんと言わなきゃ!)


俺はなまえの肩を掴んでバッと体を離すと、彼女をしっかりと見据えた。


「好きだよ、なまえ。ずっと、ずっと前から。」

『!!』


驚き、目を丸くするなまえに俺はフラれるのを覚悟で返事を待つ。


しかし――


『わ、私…私も、たち……まこちゃんが好き!!』


なまえの返事は、俺の予想外のものだった。


「え……えぇっ!?」


思わず大きな声をあげる俺に、なまえは恥ずかしそうに目をそらす。


「え、だって、なまえ、ずっと俺らのこと避けて…え、な、何で…??」

『そ、それは…周りに色々言われるのが嫌だったからで、寂しかったけど仕方なく…というか…。』

「そうだったの!?」

『うん…。だから、私もずっと前からまこちゃんのこと、想ってたよ。』

「なまえ…」


なまえが好きだと言ってくれたことが、名前を呼んでくれたことがすごく嬉しくて、俺は思わずまた小さな彼女をぎゅっと抱き締めた。


「じゃあ今日から俺たち、恋人同士だね。」

『こ…っ!?そ、そうだね。』


恋人同士という響きが恥ずかしいのか、ピクリと肩を震わせるなまえに笑みがこぼれる。


それでも、"よろしくね"と言った俺にふわりと幸せそうに笑うなまえが可愛くてそっと唇を重ねる。


遠くから聞こえる心地よい波の音が、夏を感じさせる。


俺たちの夏はこれからだ。


END


     

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