▽鮫兄妹にはご注意を







「あ、なまえさん!いらっしゃい。」


インターホンを鳴らすと、玄関から江ちゃんが出てきたことに私は目を丸くする。


『あれ…江ちゃん?』

「あ、私ですみません。お兄ちゃん、今ちょっと急用で出掛けてて。」

『え、そうなの?』

「はい。けど、すぐに戻ってくるので。どうぞ。」


にっこりと微笑まれ、お邪魔しますと中に入った。


「あ、お兄ちゃんからの伝言で、部屋で待ってろ、だそうです。」

『うん、分かった。ありがとう、江ちゃん。』


江ちゃんにお礼を言ってから、来なれた凛の部屋に入り、腰を下ろす。


『ふぅ…』


(凛…早く帰ってこないかな…。)


いつも凛が忙しいため、今日は久々のデートだった。


だからこそ早く会いたいと思って来たのに、まさかの急用とは何ともついていない。


「ま、キャンセルになるよりはマシか…。」


一人、ぽつりと呟くとコンコンとノックされた。


『はい?』


返事を返すと、江ちゃんがお茶を持って部屋に入ってきた。


「よかったら、どうぞ。」

『あ、ごめんね。わざわざありがとう。』

「いえいえ」


持ってきてもらったお茶に手を伸ばし、乾いた喉を潤していると江ちゃんが口を開いた。


「そういえば、お兄ちゃんとは最近どうですか?」

『え…!?』


唐突な質問に持っていたコップを落としそうになる。


「わぁ!大丈夫ですか!?」

『う、うん。大丈夫。ていうか、江ちゃんが急にそんなこと聞くから…!』

「えへへ、すみません。」


可愛らしく笑う江ちゃんにそれ以上は言えず、いいよと返す。


「で、実際どうなんですか?」

『どうって…別に普通だよ?』

「えぇ〜なんか適当に言ってませんか?」

『適当じゃなくて、事実を言っただけだよ…。』


思わず苦笑すると、江ちゃんはでも、と続ける。


「お兄ちゃん、なまえさんの話になるときらきらしてるのでそれだけ好きなんだろうなぁと思います。」

『そ、そうなの?』

「はい。とっても幸せそうです。」


そんな風に自分のことを話してくれているなんて、嬉しくないわけがない。


『そっか…凛が…』


自然と緩む頬を押さえると、江ちゃんは楽しげに笑う。


「なまえさん乙女ですね〜。」

『もう江ちゃん、あんまりからかわないで。』

「あはは、すみません。けど、これからもお兄ちゃんのこと、よろしくお願いしますね。」

『!!』


そう言う江ちゃんのちょっぴり真剣な表情がどことなく凛に似ていて、私の心臓がドキリと跳ねた。


『あ…えっと、うん。』


曖昧な返事になってしまった私に江ちゃんは首をかしげる。


「どうしたんですか?」

『え?あ、えーっと、やっぱ兄妹だから、似てるなーって思って。』


少し目線をそらしながら言うと、江ちゃんはふふっと笑い私に顔を近づけた。


「そんなに似てますか?」

『ご、江ちゃん?』


焦る私に構わず、江ちゃんは先程のように真剣な表情になる。


『あ、あの、あんまり見つめられると照れ…』

「なまえ」

『!』


突然、呼び捨てで呼ばれ私は思わず固まってしまった。


(な、なんか…ほんとに凛に見えてきた…かも?)


顔の近さとか、江ちゃんの表情とか、最近凛に会えてなかったから会いたいって気持ちとか、色々な要因が重なってパニックになる。


(あれ…ここにいるのは江ちゃんで
、でも凛に似て…うん?じゃあ凛?いやいや何言って…)


段々よく分からなくなってきた頃、ガチャリと部屋の扉が開いた。


「悪ぃ、遅くな……って何やってんだ?お前ら。」

『り、凛?』

「お兄ちゃん!」


凛の登場に江ちゃんはようやく私から離れ、立ち上がった。


「すみません、少しからかいすぎました。じゃあ私はこれで。」


ごゆっくりどうぞ、と江ちゃんが出ていくと、ようやく張り詰めていた糸が切れたように体の力が抜けた。


『はぁ……』

「どうした?何やってたんだ?」

『り、凛…』

「ん?」


首をかしげる凛の頬をそっと撫でる。


『本物だ…。』

「はぁ?」


怪訝そうな目を向けてくる凛に、私は苦笑しながらぎゅっと抱きついた。


「わっ…なまえ?」

『はぁ…落ち着く。』

「なっ…!何だよ急に!」

『んーん。何でも。ねぇ凛、ぎゅってして?』

「…もうしてんだろ。」

『へへ、そうだね。』


優しく頭を撫でてくれる凛に、"もっと"とねだるようにすり寄る。


「なんか、今日は素直だな。」

『だめ?』

「いや…いつもこんぐらい素直だったらなぁと思っただけだ。」

『むっ…いつも可愛くなくてごめんね。』

「別にそうは言ってねぇだろ。」


そう言うと、凛はそっと私の頬を撫でる。


「俺はお前が好きだから、どんなお前でも可愛く見えんだよ。」

『…なにそれ。』


いつも正面切って可愛いなんて言わないから、恥ずかしくなって目をそらすと凛はフッと笑った。


「やっぱ、素直なのはたまにでいいかもな。」

『へ?』

「じゃねぇと、俺が我慢できなくなる。」

『はい!?』


赤くなっているであろう私の顔を見て凛はにやりと笑う。


「てなわけで、いただきます。」

『えっ、ちょ、ちょっと待っ、』


最後まで言い終える前に、凛は私の唇に噛みついた。



END


     

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