▽溢れる愛しさ



「ほらなまえさん、着きましたよ。」

『は〜い!』


テンション高く返事をしたなまえさんは俺の手から離れ、少しふらつきながら部屋に入りソファに座る。


昨日のうちに飲み会だとは聞いていたため、飲みすぎないよう注意したのだがどうやら効果は無かったらしい。


「ったく…大丈夫ですか?」

『大丈夫だよ〜!』


言いながら楽しげにふふふと笑っているなまえさんの隣にため息をつきながら腰を下ろす。


すると、何を思ったのかなまえさんは堅治くん〜と甘えた声を出しながら俺にぎゅっと抱きついた。



「ちょっ、なまえさん、何ですか?急に。」

『ふふふ。ねぇ堅治くん、ちゅーして?』

「……は?」


普段こんなに大胆に甘えてこないなまえさんに思わず固まってしまう。


そんな俺になまえさんは不思議そうに首をかしげる。


『?どうしたの〜?堅治くん。』

「いや、それはこっちのセリフですよ!?」

『なーにー?堅治くんは私とちゅーしたくないの?』

「う…っ」


潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ、思わず理性が崩れそうになるが、ぐっと堪える。


「えっと、いや、そういうわけじゃなくて…。とにかく今はダメっすよ。」

『え〜…』

「え〜じゃないです。ほら、お水飲んでください。」


とりあえず酔いを覚ましてもらおうとコップに入った水を手渡すも、なまえさんは頬を膨らませ不服そうにするだけで受け取ろうとはしない。


「なまえさん、ほら飲んでくださいってば。」

『堅治くんがちゅーしてくれなきゃやだ〜。』

「……はぁ。」


駄々をこねるなまえさんに仕方なくコップの水を手に取り、口に含んでこくりと飲んだ。


「ほらなまえさん、これで間接キスですよ。」


言いながらもう一度コップを差し出すも、なまえさんはぶーぶーと文句を言うばかりで中々飲んでくれない。


『間接はいや〜!』

「何でですか。これもキスでしょ?」

『そんなのちゅーの内に入らないもん!』

「もういいから早く飲んでください。」


なまえさんの腕を掴み、その手にコップを握らせるとじっとコップを見つめた後、漸く水を飲んでくれた。


(はぁ…やっとか。)


なんて安心したのも束の間、コップをテーブルに置いたなまえさんは俺の首にぎゅっと腕を回し、強引に唇を重ねた。


「!?」

『んっ…堅治くん…っ』


ちゅっ、ちゅっ、と啄むようななまえさんらしい可愛いキス。


その合間に聞こえる甘い声で名前を呼ばれ、俺は飲んでいないはずなのに酔ったような感覚になる。


(やばい…理性が…っ)


さすがに酔った彼女に手を出す事はしたくない。


そう思い慌てて肩を掴んで離れさせると、なまえさんはまた頬を膨らませた。


『何でやめちゃったの〜?』

「これ以上は、ダメです。」

『ねぇ、何で?』

「……何でもです。」

『ちゃんと理由言って?』


しつこく聞いてくるなまえさんにこのまま黙っている訳にもいかず、渋々口を開く。


「だから…」

『だから?』

「キスだけじゃ…止まりそうになかったからです。」

『え…』


自分で言っておきながら何となく気恥ずかしくなって、ふいっとなまえさんから視線をそらす。


「そういう…わけですから。」


小さく呟いてコップを流しに持っていこうと立ち上がると、待ってとなまえさんに服の裾を掴まれた。


『私、いいよ?』

「え?」

『だから、キスの先もしていいよ。』

「!?」


酔いの力とは恐ろしい。


こんなにも人を変えてしまうものなのか。


「いや、何言ってるんですか。まだ酔い覚めてないんですか?」

『覚めてるよ!ていうか、元々あんまり酔ってなかったし…。』

「いや、あんなにふらついてたじゃないですか!」

『わ、わざとだもん!それに、キスしたのだって、最初からそのつもりだったもん…。』

「!!」


要するに、なまえさんは酔ったフリまでして俺を誘ってくれていたということなのだろうか。


だったら、こんなにも嬉しいことはない。


俺はもう一度コップをテーブルに置き、ぎゅっとなまえさんを抱き締めた。


「なまえさん、何で急にこんなことしたんですか?」

『そ、それは…堅治くんが、前にたまにはそういうことしてほしいって言ってたから、酔った勢いってことにすれば自然にできるかなって…。』


半分冗談で言ったことをどうやらなまえさんは本気ととっていたらしい。


俺のために頑張ってくれたなまえさんがたまらなく愛おしくて、俺は少し体を離して彼女の顔を覗き込んだ。


「顔赤いですよ。」


クスリと笑えば、恨めしそうに睨んでくる。


そんな表情さえ可愛らしく見えて、俺はちゅっとなまえさんの額に口づけた。


「なまえさん、可愛い。」

『う、うるさいっ』

「誉めてるのに。」


苦笑しながら肩をすくめ、俺はそっと彼女をソファに押し倒す。


「後で怒ったりしないでくださいよ?」

『し、しないよっ!』

「じゃあ遠慮なく。」


じっと俺を見つめるなまえさんに微笑みかけ、その柔らかな頬を撫でながら耳元に唇を寄せた。


「愛してます、なまえさん」

『!!』


ぴくりと肩を揺らしたなまえさんが可愛くて、俺はそのまま首筋に唇を這わせた。



END

     

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