▽それぞれのカタチ


インターホンを鳴らすと、珍しく研磨が出てきた。


いつもはおばさんか、なまえが出てくるため俺は思わず首をかしげる。


聞けば、どうやらおばさんは出掛けているらしい。


「研磨、なまえは?」

「二階だよ。」

「ん、サンキューな。」


研磨に言われた通り、二階へと続く階段を上がる。


なまえは研磨の1つ下の妹で、俺の彼女。


研磨を弟のように可愛がってきたのと同様に、なまえのことも妹のように可愛がってきた。


そんな彼女を妹としてではなく、1人の女の子として見るようになったのはほんの1年ほど前のこと。


それから自分の想いに気づいた俺が告白し、晴れて俺たちは恋人同士となったのだった。


なまえの部屋の前につき、こんこんとノックすればはーい、と可愛らしい返事が返ってくる。


「俺だ、なまえ。入っていいか?」

『どうぞー』


了承を得て中に入ると、なまえは勉強していたらしく机に座っていた。


『鉄くん、いらっしゃい。』


振り返った彼女にふわりと微笑まれ、俺も微笑み返す。


「勉強してたのか?」

『うん。もうすぐテスト近いしね。』

「相変わらず真面目だなー。」


なまえは研磨と同様に頭がいい。


けれど研磨と違うのは、努力を惜しまないところ。


研磨は頭がいいから、少しやれば大抵それなりの点数は取れる。


それに対して、なまえも同じように少しやればそれなりの点数は取れるが、そこで止まったりしない。


そのためなまえの成績はいつも上位。


そんな努力家なところが、彼女の魅力の1つでもあったりする。


『あ、鉄くん、テーブルに置いてあるお茶、飲んでいいからね。私、口つけてないから。』

「あぁ、サンキュ。」


丁度喉の乾いていた俺は、有り難くお茶を一口飲んだ。


「よし、じゃあ俺が来たから勉強はちょっと休憩な。ほら、こっちこい。」


ベッドの上に座り、両腕を広げるとなまえは嬉しそうに俺の足の間に座った。


『はぁ〜』

「どうした?疲れたか?」

『違うよ。幸せだなぁっていうため息。』

「なんだそれ。」


けど、俺も同じことを思っていたからすごく嬉しかった。


『あのね、』

「ん?」

『この間友達にね、私と鉄くんはちゅーまでしかしてないよって言ったら、遅いよって言われたの。』

「!?」


あまりの唐突な話題に俺は思わず目を丸くする。


(なまえの友達…俺のなまえに何言ってんだ!?)


困惑する中、でもね、となまえは続ける。


『私は、何もしなくても鉄くんとこうして一緒にいたり、お喋りできるだけで十分幸せで、満足なの。これって…変、かな?』


不安げに揺れるなまえの声。


そんな彼女を安心させるように、俺は彼女を抱き締める腕に力を入れた。


「大丈夫だ。何も変じゃない。」

『ほんと?』

「あぁ。はっきり言えば、俺だってそういうことに興味がないわけじゃない。けど、俺もなまえと同じように今のままで十分幸せだって感じてる。」

『そっか…よかった。』


嬉しそうに笑うなまえに俺も自然と笑顔になれる。


「だから、お前は他のやつがなんと言おうと気にしなくていい。人には人のペースがあるんだ。俺たちは、俺たちのペースでゆっくり進んでいけばいい。」

『うん、そうだね!ありがとう、鉄くん。』

「おう。」


なまえが安心してくれたことにほっと安堵し、彼女の髪にちゅっと口付ける。


すると、不意にくるりとなまえが俺を振り返った。


「なまえ?」

『鉄くん…』


じっと俺を見つめてくるなまえ。


その意図を汲み取った俺は、フッと笑みをこぼし、彼女の頬に手をそえた。


「なまえ、好きだ」

『うん、私も』


ゆっくりとなまえの瞳が閉じられたのと同時に、俺は彼女の柔らかな唇に自身のそれを重ねる。


テーブルの上に置いてあったコップの氷がカラン、と涼しげな音を立てた。



END


▼30万打企画より

     

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