▽妬いて、妬かれて






『岩ちゃん…っ!』


私を見るなり、またか…とため息をつく岩ちゃん。


「こんなとこ来てないで、さっさと帰…」

『岩ちゃん、お願いっ!』


じっと涙目で訴えれば、岩ちゃんはまたはぁ…とため息をついた。


「分かったから泣くな。ほら、入れ。」


何だかんだ言って優しい岩ちゃんは、毎回のごとく部屋に上がらせてくれた。


「で、今日は何だ?」

『あのねっ、徹くんがねっ、また女の子に囲まれてたの!』

「んなのいつものことだろ。いい加減慣れろよ。そういうの分かった上で及川と付き合ってんだろ?」


そう、私と徹くんは付き合っている。


小さい頃からずっと一緒で、いわゆる幼馴染みでもある。


そんな徹くんと付き合い始めたのは中学3年の時からなんだけど、高校に上がってからは徹くんは今まで以上にモテ具合がぐっと上がった。


そのため、女の子に囲まれているのなんて日常茶飯事。


それでも、徹くんは私のことを好きでいてくれているから付き合っているわけで。


そんなことは頭では分かっているけれど、やっぱり他の子と一緒にいるのを見るのは妬けてしまう。


もちろん徹くんのことは信じている。


告白されても断っているのも知っている。


けれど、信じることと不安になることは違う。


だから私はいつも、同じ幼馴染みである岩ちゃんに相談という名の愚痴を聞いてもらっているのだ。


『分かってるんだよ…分かってるんだけどさ…今日の子たちは何かいつもと違ったの…。』

「いつもと違うって?」

『なんか、むやみやたらに徹くんにくっついてた…。』


落ち込む私にやっぱり優しい岩ちゃんは何も言わずに私の頭をそっと撫でてくれる。


『徹くん…何で拒まないのかな…。あの子たちのこと、好きなのかなぁ。』

「んなわけねぇだろ。その証拠にお前と別れてねぇし。」

『そうだけどさ…浮気かもしれないし、別れを言い出しにくいのかもしんない…。』


どんどんマイナス思考になるのが私の悪い癖。


分かっているけど、性格は中々変えられない。


そんな私を大丈夫って励ましてくれるのが岩ちゃん。


「もっと自信持てよ。お前はあいつに誰よりも大事にされてんだろ。」

『うぅ…岩ちゃんはやっぱり優しいね…。私、岩ちゃんと付き合えばよかったなぁ。』

「はぁ…何バカな事言ってんだよ。お前は俺の手に余るから無理だ。」

『えーひどいー。』


むうっと頬を膨らませる私の頭を岩ちゃんはにっと笑いながらくしゃくしゃと撫でてくれる。


お互い長い付き合いだから、こんな風に冗談も言い合える。


『そんな酷いこと言う人にはこうだー!』

「うわっ!バカ、やめろ!」


冗談ついでにぎゅっと抱きつけば、岩ちゃんは私を押し退けようとする。


けど、剥がそうと思えばすぐできるのに、岩ちゃんはそうしない。


そんな彼の優しさが嬉しくて笑っていると、突然部屋のドアが開いた。


「何してるの?」

『と、徹くん…!』


徹くんは、私と岩ちゃんを見るなりキッと睨んだ。


纏っている雰囲気がいつもの柔らかい感じでは無く、ピリピリとしていて怒っているのが見てとれる。


「何してるのって聞いてるんだけど。」

『あ、えっと、これは、』


遊んでて、と言いかけたところで徹くんの怒りの矛先は岩ちゃんに向いた。


「家にいないと思ったら、よりによってここにいるなんて…。人の恋人に手、出すとか岩ちゃんでも許せないんですけど。」

『ちょっ、違っ…!』

「っていうかなまえもなまえで何でくっついたままなの?いい加減離れなよ!」

『徹くん…』

「何?岩ちゃんが好きなわけ?」

「おい、及川!てめぇ、何言ってんだよ!」


違う。そんなわけない。


だって今の今まで徹くんのことを相談してたんだから。


言いたいけれどうまく言えないし、話を聞いてくれない上に私のことを信じてくれていない徹くんに無性に怒りと悲しみが込み上げてきた。


『やだ…離れない…』

「なまえ!?」

「やっぱり岩ちゃんのこと…」

『違うっ!!』


叫ぶように言えば、徹くんは黙り込んだ。


『確かに岩ちゃんのことは好きだけど、それは幼馴染みだから。一番好きなのは徹くんだよ。』

「だったら、」

『けど!徹くんだって、同じこと…してるでしょ?』


キッと見上げれば、徹くんはピクリと肩を揺らした。


そんな私たちに岩ちゃんはため息をつく。


「なまえはいっつも、お前の事で相談に来てたんだよ。」

「え…?」

「こいつは毎回毎回口を開けばお前の事ばっかで、お前が女に囲まれてんの見んのが嫌だって言うくせに、お前と別れてぇなんて言わねぇし、お前に心配かけたくねぇとか、嫌われたくねぇとかで弱音も吐かねぇ。それなのに、お前はこいつのこと信じてやれねぇのかよ。」

『岩ちゃん…』


徹くんはぐっと唇を噛み締めると、すっと私の前にしゃがみこんだ。


「ごめん、なまえ…。俺、なまえのこと好きなくせに、信じれないなんて最低だね…。」

『徹くん…』

「なまえとちゃんと話したい。だから、一緒に帰ろう。ね?」

『……うん』


すっと差し出された手に手を重ねれば、徹くんはにっこり笑って立ち上がらせてくれた。


「てなわけで岩ちゃん、俺ら帰るね。」

「はぁ…さっさと帰れ帰れ。」

『ごめんね、岩ちゃん…。ほんとにいつもありがとう。』

「気にすんな。もう慣れた。」


そう言って笑った岩ちゃんに手を振り、私たちは帰路についた。


といっても、岩ちゃんの家から私や徹くんの家は近いのですぐに着いた。


「なまえ…ほんとにごめんね。俺、もうちょっと気を付けるよ。」

『うん、ありがとう。』

「だからさ、これからは何かあったら岩ちゃんじゃなくて、俺に頼ってよ。だって、なまえの彼氏は俺でしょ?」


少し寂しそうに笑った徹くんに、私も彼を傷つけてしまったんだと実感して胸が痛んだ。


『うん…私の方こそごめんね。次からはちゃんと徹くんに直接相談するから。』

「うん、約束。」


徹くんは私の小指を自身のと絡めると、にっこりと笑った。


「はい、じゃあ仲直りのハグー!」

『きゃっ!』


急にぎゅっと抱き締められ、私の心臓はバクバクと速くなる。


『と、徹くん、ここじゃ恥ずかしいよ…。』

「誰もいないから大丈夫!それに、」

『それに?』

「いっつも恥ずかしがってあんまり俺にはしてくんないのに、岩ちゃんにはくっつくなんて、ずるい。」


ちょっぴり恥ずかしそうに、らしくないことを言う徹くんが可愛くて私は思わず笑ってしまう。


「ちょっとー笑わないでよ!」

『だって徹くん、可愛いんだもん。』

「全然嬉しくないしー。」


クスクスと笑っていると、パッと体を離された。


『徹くん?』

「その余裕、無くさせてあげる。」

『へ?』


徹くんは不適な笑みを浮かべると、私の手を引いて家へと入る。


『え?え?ちょっ、徹くん!?』

「今日うち、親いないんだよねー。この意味、分かる?」

『え、えーっと…』


嫌な予感がして腕を引こうとすると、逆に腰に手を回され引き寄せられた。


「簡単に言うとね、お仕置きしてあげるってこと。」

『え!?ちょっと待っ…』

「はい、おしゃべりはここまで。」

『んっ…!』


目を閉じる暇もなく唇を重ねられ、啄むような口づけが繰り返される。


それが苦しくて、酸素を求めて薄く唇を開くと徹くんの熱い舌が滑り込んできた。


『んんっ…ふ…っ』


口内を動き回る舌に自身のそれはあっという間に捕まり、絡められる。


それを繰り返す内に頭がぼーっとなり、徹くんのことしか考えられなくなる。


((も…だめ…っ!))


力が抜け、立っていられなくなった私を徹くんは支えてくれた。


「ダメだよなまえ。キスだけで力が抜けちゃうなんて。」

『だ、だって…』

「はい、じゃあベッド行こうね。」


私の言葉も聞かず、徹くんは軽々と私を抱き上げる。


「たっぷり可愛がってあげるよ、なまえ。」


にやりと笑った徹くんがかっこよくて、私は思わず目をそらし、徹くんの肩に顔を埋めた。


そんな私の髪にちゅっと口づけると、徹くんは二階に続く階段を上っていく。


徹くんの腕の中でゆらゆらと揺られながら、これから起こることを少しだけ期待してしまっているのは私だけの秘密。



END


     

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