▽君の笑顔が








"ピーンポーン"


家のインターホンが鳴り、俺はすぐさま玄関へと向かう。


ガチャリとドアを開けば、そこには案の定びしょ濡れになった俺の大事な彼女。


「なまえ!大丈夫!?」

『うん、平気だよ。ごめんね、電話出れなくて。』

「そんなこといいよ。ほら、早く入って。」


そう言って、俺は彼女の腕を引いて中に入った。


部屋に入ると、用意しておいたタオルで彼女の髪を優しく拭く。


「あーあ…こんなに濡れて。風でも引いたらどうするの?」

『大丈夫だよ。私、風とかあんまり引かないし。』

「そういう問題じゃないでしょ。うーん…これはダメだな…。なまえ、お風呂入っておいで。その間に服とか乾かしておいてあげるから。」

『え…!い、いいよ!大丈夫!』


慌てて首を横に振る彼女の頬を両手で包む。


「ダーメ。こんなに冷えてるし。温まってきなさい。」


ちょっぴり真剣に言うと、なまえは渋々頷く。


『ごめんね、徹くん。今日、誕生日なのに…。』


そう、今日は俺の誕生日。


誕生日なんてそこまでこだわってもいないけど、彼女がお祝いしてくれるって言うから今日は家に来てもらった――


のはよかったんだけれど彼女が家を出たとき、突然の夕立が来てしまったのだ。


もちろん俺はすぐさま迎えにいこうと連絡したんだけれど、パニクっていたのか彼女は電話に出ず、今に至る。


「いいよ。来てくれて嬉しかった。ほら、早く入っておいで。」


ぽんぽんと優しく頭を撫でればなまえは申し訳なさそうにしつつ、脱衣場へと入っていった。









『徹くん、お風呂ありがとー。』

「どういたしまして。ちゃんと温まった?」

『うんっ』


にっこりと笑うなまえはさっきよりも血色がよくなっていて、俺もほっと安心する。


『服も貸してくれてありがとう。けど、やっぱり徹くんって大きいんだね〜。』


楽しげに笑うなまえが着ている俺のシャツは、彼女にとっては確かに大きくてワンピース状態だ。


「これでも、小さめのサイズ選んだつもりだったんだけどなぁ…。」


言いながら彼女の可愛い"彼シャツ"姿を見れたことに、不謹慎だけど雨に感謝しておいた。


『よし。それじゃあ約束通り、料理作るからキッチン借りるね。』

「どうぞ。俺も何か手伝おうか?」

『だいじょーぶ!徹くんは、今日は主役なんだから座って待ってて?』


にっこりと笑顔で言われ、俺は大人しくリビングで待つことにした。









『徹くん、できたよー。』


呼ばれてテーブルを見てみると、俺の好物ばかりがズラリと並んでいて思わず頬が緩む。


「わぁ…!おいしそー!!」

『へへ、頑張っちゃった。』


照れ臭そうに笑うなまえが愛しくて、彼女をぎゅっと抱き締めた。


「ありがとう。すごく嬉しい。」

『ふふ、どういたしまして。』


柔らかく微笑む彼女に口付けようと、顔を近づけると――


『ほら、冷めない内に食べて。』


そう言いながら、やんわりと腕を解かれてしまった。


もちろん彼女は意図的にやったわけではない。


ただ、こういう雰囲気に少し疎いのだ。


(うーん…ま、あとででいっか。)


相変わらずな彼女に苦笑しつつ、俺は席についた。









「ごちそうさまでした。」

『お粗末様です。』


作ってくれた手料理を全て平らげた俺はなまえに美味しかったよ、と告げる。


『けど、まさか全部食べてくれるなんてびっくりしたよ。』

「当たり前でしょ。なまえが俺のために作ってくれたんだから。」


さらりと言えば、少し頬を染めるなまえ。


その表情がかわいくて、俺の頬も緩む。


片付けを二人でやり終えると、彼女はもう一度席に座るように俺に告げた。


「なに?どうしたの?」

『はい、これ。』


差し出されたのは、可愛らしくラッピングされた包み。


「え…プレゼント?」

『うん。』

「ありがとう。開けてもいい?」


こくりと頷くのを確認してから、俺は包みを開け始める。


『すごく迷ったんだけど、一生懸命選んだから気に入ってもらえると嬉しいな…。』

「へぇ…なんだろ。」


言いながら開けると、中には細長い箱の中にネックレスが入っていた。


「ネックレスだ。ありがとう。着けるよ。」

『あとね、それ、私のとペアなの。』


そう言って首もとに着けているネックレスを見せるなまえ。


確かに俺のと似ている。


「あ、ほんとだ。」

『ふふ。あとね、ベタだけど…こうやってくっつけるとハートになるの。』

「へぇ〜面白いね。ほんと色々ありがとね、なまえ。」


にっこりと笑う俺に、なまえも笑う。


『あと、実は…ケーキ作ってきたんだけど、まだ食べれるかな?』

「ほんと?全然まだ余裕だよ。」

『よかった!じゃあ持ってくるね。』


そう言うと彼女は立ち上がり、キッチンの冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出してきた。


そのケーキをテーブルの上にのせ、俺たちは向かい合わせに座る。


「開けていい?」

『うん』


彼女の了承を得てから、ゆっくりと箱を開けると――


『あ…!』

「!!」


中にはきれいなケーキ。


が、崩れて入っていた。


どうやら雨の中急いで来たせいか、形が崩れてしまっていたらしい。


それを見てなまえは少し呆然としていたけれど、やがてじんわりと目を涙で潤わせ、ぽろぽろとこぼした。


『ごめんねっ、徹くんっ…ケーキ、ダメにしちゃってたみたいっ…ぐすっ』


言いながらケーキをしまおうとするなまえの手を制す。


「大丈夫。形が崩れちゃっただけで、まだ食べれるよ。」

『でもっ、こんなのじゃなくてっ、ちゃんとしたの、食べてほしいっ…。私、また作るからっ…だから…っ』

「いいの。今食べたいから。それに俺を想って作ってくれたんでしょ?」

『うん…』

「だったら尚更。こんなにも気持ちがこもってて、しかもなまえが作ってくれたケーキなんだから捨てられないよ。」

『徹くん…っ』

「だから、一緒に食べよ。ね?」

『うん…っ』


こくりと頷いた彼女の涙を優しく拭い、頭を撫でる。


「ほら、もう泣かないで。笑ってよ。俺、なまえの笑顔見ると幸せになるんだ。」


俺の言葉に、なまえは柔らかく微笑む。


その笑顔に俺も自然と笑顔になった。


「そうそう。それでいーの。なまえの笑顔が、俺にとって何よりのプレゼントなんだから。ありがとう。」


そのまま顔を近づけて、"ちゅっ"と優しく口付ける。


彼女の涙で濡れた唇はしょっぱくて、俺たちは顔を見合わせて笑いあった。



























〈ん…!すごくおいしい!〉

《ほんと?よかった。》

〈ねぇ、なまえ〉

《ん?》

"ちゅっ"

《!?》

〈あ、今度は甘い。〉

《と、徹くんのばか…っ!》



END



遅れちゃったけど、Happy Birthday 及川さん!!

岩ちゃんに怒られてる及川さんも、試合中の真剣な及川さんもだいすきです。


2014.07.20

     

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