▽君の笑顔が
"ピーンポーン"
家のインターホンが鳴り、俺はすぐさま玄関へと向かう。
ガチャリとドアを開けば、そこには案の定びしょ濡れになった俺の大事な彼女。
「なまえ!大丈夫!?」
『うん、平気だよ。ごめんね、電話出れなくて。』
「そんなこといいよ。ほら、早く入って。」
そう言って、俺は彼女の腕を引いて中に入った。
部屋に入ると、用意しておいたタオルで彼女の髪を優しく拭く。
「あーあ…こんなに濡れて。風でも引いたらどうするの?」
『大丈夫だよ。私、風とかあんまり引かないし。』
「そういう問題じゃないでしょ。うーん…これはダメだな…。なまえ、お風呂入っておいで。その間に服とか乾かしておいてあげるから。」
『え…!い、いいよ!大丈夫!』
慌てて首を横に振る彼女の頬を両手で包む。
「ダーメ。こんなに冷えてるし。温まってきなさい。」
ちょっぴり真剣に言うと、なまえは渋々頷く。
『ごめんね、徹くん。今日、誕生日なのに…。』
そう、今日は俺の誕生日。
誕生日なんてそこまでこだわってもいないけど、彼女がお祝いしてくれるって言うから今日は家に来てもらった――
のはよかったんだけれど彼女が家を出たとき、突然の夕立が来てしまったのだ。
もちろん俺はすぐさま迎えにいこうと連絡したんだけれど、パニクっていたのか彼女は電話に出ず、今に至る。
「いいよ。来てくれて嬉しかった。ほら、早く入っておいで。」
ぽんぽんと優しく頭を撫でればなまえは申し訳なさそうにしつつ、脱衣場へと入っていった。
*
『徹くん、お風呂ありがとー。』
「どういたしまして。ちゃんと温まった?」
『うんっ』
にっこりと笑うなまえはさっきよりも血色がよくなっていて、俺もほっと安心する。
『服も貸してくれてありがとう。けど、やっぱり徹くんって大きいんだね〜。』
楽しげに笑うなまえが着ている俺のシャツは、彼女にとっては確かに大きくてワンピース状態だ。
「これでも、小さめのサイズ選んだつもりだったんだけどなぁ…。」
言いながら彼女の可愛い"彼シャツ"姿を見れたことに、不謹慎だけど雨に感謝しておいた。
『よし。それじゃあ約束通り、料理作るからキッチン借りるね。』
「どうぞ。俺も何か手伝おうか?」
『だいじょーぶ!徹くんは、今日は主役なんだから座って待ってて?』
にっこりと笑顔で言われ、俺は大人しくリビングで待つことにした。
*
『徹くん、できたよー。』
呼ばれてテーブルを見てみると、俺の好物ばかりがズラリと並んでいて思わず頬が緩む。
「わぁ…!おいしそー!!」
『へへ、頑張っちゃった。』
照れ臭そうに笑うなまえが愛しくて、彼女をぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう。すごく嬉しい。」
『ふふ、どういたしまして。』
柔らかく微笑む彼女に口付けようと、顔を近づけると――
『ほら、冷めない内に食べて。』
そう言いながら、やんわりと腕を解かれてしまった。
もちろん彼女は意図的にやったわけではない。
ただ、こういう雰囲気に少し疎いのだ。
(うーん…ま、あとででいっか。)
相変わらずな彼女に苦笑しつつ、俺は席についた。
*
「ごちそうさまでした。」
『お粗末様です。』
作ってくれた手料理を全て平らげた俺はなまえに美味しかったよ、と告げる。
『けど、まさか全部食べてくれるなんてびっくりしたよ。』
「当たり前でしょ。なまえが俺のために作ってくれたんだから。」
さらりと言えば、少し頬を染めるなまえ。
その表情がかわいくて、俺の頬も緩む。
片付けを二人でやり終えると、彼女はもう一度席に座るように俺に告げた。
「なに?どうしたの?」
『はい、これ。』
差し出されたのは、可愛らしくラッピングされた包み。
「え…プレゼント?」
『うん。』
「ありがとう。開けてもいい?」
こくりと頷くのを確認してから、俺は包みを開け始める。
『すごく迷ったんだけど、一生懸命選んだから気に入ってもらえると嬉しいな…。』
「へぇ…なんだろ。」
言いながら開けると、中には細長い箱の中にネックレスが入っていた。
「ネックレスだ。ありがとう。着けるよ。」
『あとね、それ、私のとペアなの。』
そう言って首もとに着けているネックレスを見せるなまえ。
確かに俺のと似ている。
「あ、ほんとだ。」
『ふふ。あとね、ベタだけど…こうやってくっつけるとハートになるの。』
「へぇ〜面白いね。ほんと色々ありがとね、なまえ。」
にっこりと笑う俺に、なまえも笑う。
『あと、実は…ケーキ作ってきたんだけど、まだ食べれるかな?』
「ほんと?全然まだ余裕だよ。」
『よかった!じゃあ持ってくるね。』
そう言うと彼女は立ち上がり、キッチンの冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出してきた。
そのケーキをテーブルの上にのせ、俺たちは向かい合わせに座る。
「開けていい?」
『うん』
彼女の了承を得てから、ゆっくりと箱を開けると――
『あ…!』
「!!」
中にはきれいなケーキ。
が、崩れて入っていた。
どうやら雨の中急いで来たせいか、形が崩れてしまっていたらしい。
それを見てなまえは少し呆然としていたけれど、やがてじんわりと目を涙で潤わせ、ぽろぽろとこぼした。
『ごめんねっ、徹くんっ…ケーキ、ダメにしちゃってたみたいっ…ぐすっ』
言いながらケーキをしまおうとするなまえの手を制す。
「大丈夫。形が崩れちゃっただけで、まだ食べれるよ。」
『でもっ、こんなのじゃなくてっ、ちゃんとしたの、食べてほしいっ…。私、また作るからっ…だから…っ』
「いいの。今食べたいから。それに俺を想って作ってくれたんでしょ?」
『うん…』
「だったら尚更。こんなにも気持ちがこもってて、しかもなまえが作ってくれたケーキなんだから捨てられないよ。」
『徹くん…っ』
「だから、一緒に食べよ。ね?」
『うん…っ』
こくりと頷いた彼女の涙を優しく拭い、頭を撫でる。
「ほら、もう泣かないで。笑ってよ。俺、なまえの笑顔見ると幸せになるんだ。」
俺の言葉に、なまえは柔らかく微笑む。
その笑顔に俺も自然と笑顔になった。
「そうそう。それでいーの。なまえの笑顔が、俺にとって何よりのプレゼントなんだから。ありがとう。」
そのまま顔を近づけて、"ちゅっ"と優しく口付ける。
彼女の涙で濡れた唇はしょっぱくて、俺たちは顔を見合わせて笑いあった。
〈ん…!すごくおいしい!〉
《ほんと?よかった。》
〈ねぇ、なまえ〉
《ん?》
"ちゅっ"
《!?》
〈あ、今度は甘い。〉
《と、徹くんのばか…っ!》
END
遅れちゃったけど、Happy Birthday 及川さん!!
岩ちゃんに怒られてる及川さんも、試合中の真剣な及川さんもだいすきです。
2014.07.20
←back