「お。これ、かっこいいな。」
『………』
「みょうじ?」
『あ、ごんねっ!えっと、なに?』
ただいま、澤村くんとデート中。
けれど、私はどこかぼんやりとしていて、中々デートに集中できないでいた。
そんな私を見かねた澤村くんは苦笑いすると、カフェを指差す。
「ちょっと休憩するか。」
カフェに入り、適当に飲み物を注文して、小さくため息をつく。
((せっかく澤村くんがデートに誘ってくれたのに、私最低だ…。))
けれど、どうしても頭に浮かぶのはあの時のこと。
完全に突き放してから、孝支は私に声をかけることは必要なとき以外、無くなった。
それは私が望んだことなのだから、喜ぶべきこと。
それなのに、どこか心にぽっかりと穴が空いたような感覚だった。
((そういえばあの時、澤村くんは何も聞かないでいてくれたな…。))
あの後、澤村くんは何も聞かずに泣き止んだ私の手を引いて、いつも通り一緒に帰り、家まで送ってくれた。
((それだけ大事にしてくれてるのに私は……))
またため息をつくと、澤村くんにむにっと頬を摘ままれた。
『な、なに?澤村くんっ』
驚いて澤村くんを見つめると、彼は困ったように笑う。
「難しい顔になってた。また何か余計なこと考えてたんじゃないのか?」
『あ……』
どうやら、澤村くんには全てお見通しらしい。
『ごめんなさい…。』
素直に謝ると、澤村くんはぽんぽんと私の頭を撫でる。
「別に謝ってほしかったわけじゃないんだ。ただ、俺といるのにそんな顔させちゃってんのが、何か申し訳なくてさ。」
『そんな…!澤村くんは何にも悪くないよ!私が、ぼーっとしてたから…。』
思わずうつ向く私に、澤村くんは飲んでいた飲み物を机に置くと、立ち上がった。
「今日はもう帰るか。」
『え…もう!?』
「あんまり無理させたくないんだよ。」
優しい笑みを浮かべる澤村くんに、心が痛む。
『無理なんてしてないよっ!あ、私、行きたいとこがあるの。よかったら一緒に来てくれない?』
私の提案に澤村くんは考える素振りを見せると、にっこりと笑う。
「みょうじがそう言うなら、俺はどこでも付き合うよ。」
そんな彼に、私もありがとうと微笑み返した。
「来たかった場所ってここか?」
澤村くんを連れてきたのは、小さな丘。
『うん!ここから夕日が沈むのが見えるんだけど、すごくキレイなんだよ。』
ここは小さい頃からよく遊びに来ていて、私のお気に入りの場所だった。
『昔からよく嫌なことがあったり、1人になりたい時によく来てたの。』
「へぇ〜」
『あとは、孝支ともよく来て……』
言いかけて、私は口元を押さえる。
『ご、ごめんっ』
慌てる私に澤村くんはクスリと笑う。
「いーよ。2人は幼馴染みなんだから、一緒に来てたって不思議じゃなことじゃない。」
優しい澤村くんに微笑み返しつつ、2人で並んで座った。
時折、会話を交わしつつ待っていると、夕日が沈み始めた。
「お、沈み始めたな。」
『うん…』
久々に見る風景はあの頃と変わらずにキレイで気持ちがすうっとスッキリするような感覚になる。
沈む夕日と同じように、私の心も静かに落ち着いていく。
だからこそ、私は嫌なことがあると、特にここに来て夕日を眺めていた。
そして、孝支ともよく来ていた。
初めてこの景色を見た孝支は、目をきらきらと輝かせ、私に何度も何度も"すごいね、キレイだね"を繰り返していた。
((懐かしいなぁ…。でも、何も考えずに、ただ一緒にいるだけで楽しかった頃には、もう戻れないんだよね…。))
そんなこと思っている間に、夕日はゆっくりと沈んで見えなくなった。
「キレイだったな。」
『うん。でしょ?』
にっこりと笑うと、澤村くんも笑ってくれる。
『澤村くん』
「ん?」
『今日は付き合ってくれてありがとう。』
「いや、こちらこそ。」
『あのね、澤村くん。私、澤村くんに好きって言ってもらえてほんとによかった。澤村くんがそばにいてくれると、すごく落ち着くの。』
「みょうじ…」
『だから、これからもよろしくね。』
「あぁ、よろしくな。」
お互いに微笑み合うと、澤村くんは私の頬に手を当てた。
「みょうじ……」
優しく名前を呼んで、澤村くんの顔がゆっくりと近づいてくる。
((澤村くん……))
それに合わせるように、私もゆっくりと目を閉じた。
優しい記憶は、夕日と共に沈んでいった。
To be continued…
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