▼ 夕方のお茶会
さぁ、お茶会をしようではないか
「は?」
―――いきなり呼び出して開口一番に、お茶会をしようですって?
アリスは顔が引き攣るのを感じた。
現在は、夕方の時間帯。
本来ならばアリスは仕事をしている時間帯だ。
それに、珍しいこともあるものだとふと思う。いつもなら、夜以外の時間帯にお茶会を開くことは滅多にない。主催者が夜以外の時間帯はだるいと言って部屋に引きこもっているからだ。
そして、突然なのはいつものことだけれどね。こっちは仕事中だったのよ!と、憤りを感じざるを得ない。
「…たまにはよいだろう?最近は仕事に構いっきりで、わたしの相手をしてくれていない。仕事に一生懸命なのは関心するが、わたしにも構ってほしいものだ。」
やれやれ、と肩を竦める仕草が様になっているのが余計に腹が立つ。
それに、構ってって…子供か!?
年上でマフィアのボスが、まさかのかまってちゃん、だとは…。前から片鱗は見せていたような気もするが。思わず遠い思考の海に沈みかけていたときに、アリスを呼ぶ声が。
「あら、なにブラッド?あなたどうしたの?いつもの貴方らしくないわ。いや、むしろこれがいつも通りなのかしら?寂しがり屋の帽子屋さん。」
「あぁ、わたしは寂しがり屋だからね。だから、お茶会に参加してくれるだろう?二人きりの、ね。」
皮肉をたっぷり込めた心算だったのだが、逆手に取られたような気がするのはアリスだけではないだろう。
…まさかの二人きりだとは。
まあ、テーブルをオレンジづくしにするうさぎさんや、そのうさぎさんに突っかかる双子の門番が居ては、静かなお茶会にならないであろうことは簡単に想像がつく。
そして、本当にお茶会だけで済むのか甚だ疑わしいものだ。
「…変なことしないでしょうね?」
「して欲しいのならば、ご期待に添えるが?」
―――そのニヤニヤ顔、本当に腹が立つわ。
まあ、ボス命令となれば、一応部下として従うしかないのだけれど。最近はあまりお茶会にも参加できていないので、たまにはいいかと、参加しても良い旨を伝えた。
周りの薔薇の芳香な香りと、よい紅茶の香りが、身体の疲れを忘れさせてくれる。
「夕方の薔薇園というのもよいものだな。ふむ、紅茶も美味い。」
「そうね。綺麗だわ。昼間や夜の薔薇園も素敵だけれど、夕方もいいわね。」
紅茶を飲みながら、ふと思う。どこぞの女王様も夕方と薔薇が好きだったはず、と。やはり姉弟で好みは近いのか。
「お嬢さんと飲む紅茶は何時にも増して美味しく感じるよ。だから、あまり仕事ばかりしていないで、わたしとこうして休憩と言う名のお茶会をしてくれないか?」
あまりにも真剣な顔で言うブラッドがどうしてそんなにもわたしとのお茶会にこだわるのか、わからないがたまにはいいかもしれない。こうして、薔薇に囲まれての二人きりのお茶会も。
「ええ。たまに、なら。」
「たまにではなく、いつもしてくれるとわたしは嬉しいのだがね。私は君を気に入っているのだから。」
(また、この場所でお茶会を)
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支部から。
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