小説 | ナノ


▼ いきはよいよいかえりはこわい


久々の長期休暇で実家に帰ってきた。
いつもは社畜でなかなかゆっくり休むことも出来ない身分なので、実家でゆっくりしようと思い帰ってきたのだが、
ずっと家に篭っているのも気分が良くないので、散歩でもしようと外に出ることにした。
折角なので、幼い頃よく遊んでいたであろう公園や近所を探索しようと思う。

変わっている所やそうでないところに懐かしさ満載で視線を色んな所へ忙しく彷徨わせる。
公園などは少し錆びれていて、閑散として見えた。
夕方の陽の光が公園の遊具をオレンジ色に染めていく。
昔は、もっと楽しい気持ちになっていたはずなのに。
これが大人になったということなのか。

あまり遅くなっても危ないし、用事もないのでさっさと帰ろうとする。
視界の片隅にちらりと何か白いお面のようなものが見えた気がした。
振り返るとしかし、そこには何もないし、何もいない。
だが、視えた気がしたのだがと、目を擦り、再び凝らしても何もない。

気のせい…。なのだろうか。
頭を捻りながら、ずっとここに居ても仕方が無いので帰路につく。
行きとは違う道で。

考えながら帰ったせいだろうか。
目の前に森と鳥居が。
こんな大きな鳥居、近所にあっただろうか。
大きく聳え立つ紅い鳥居。
奥には薄っすらと神社らしき建物が見えるが、建物までの山道と階段がやけに暗くてあまり見えない。

なんだか、不思議な感じがする。
入ってみたいような、誘われている感じが…。

「だめだよ」
「えっ」

突然鳥居の側から声がした。
少年と青年の間のような少し高い声。
私を冷静に咎めるようなそんな声色で。

「だ、だれ?」

スッと、鳥居の影から白い狐のお面を被った、少年…青年…の中間のような人が現れた。
若草色の袴と白い狐のお面を被っている以外は普通の青年のようだ。
しかし、だめ、とは何がなのだろう。
しかも、いつからそこに…?

「だめだよ、お姉さん。逢魔ヶ時にここに来たら。前にも言ったのに」
「え、前にも?」
「お姉さんは覚えてないかもしれないけど。とにかくだめだから。さあ、早くお帰り」

私は何か忘れているのだろうか。
覚えてない…?昔に会ったことがあるということなのか。
しかし、青年は私より年下に見えるけどそんな子と会ったことがあるだろうか。

青年に促されるがままに踵を返す。

そういえば、先程公園で見た白い物体はもしかしたらあの青年…?

そう思って後ろを振り返った時には鳥居の側には青年は居なかった。

只々、歌が聞こえるだけ

 とうりゃんせ とうりゃんせ

 いきはよいよい かえりは こわい …


えっ…
この歌は私が小さいころ、近所のお兄さんに歌ってもらったことがある。
もしかして…



「…大きくなってたなぁ。もう来てくれないかもしれないけど、僕はずっと視てるよ。危ないことしたらだめなんだから…。じゃないと帰れなくしちゃうよ、まだ、コッチ側にくるには早いから、ね」

そうつぶやくとスッと気配ごと森の中に消えていった。



END

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