花野アナだっけ?結野アナだっけ?よく知らねェが、誰だよ今日は快晴だとか言った奴。ちょっとでてこい。いやまじで。
…なんて心の中で悪態ついたところで雨が止むわけもなく、昇降口で俺はふぅと溜め息をついた。雨は本降りで走って帰っても風邪は免れないだろう。生憎今日は風紀委員の奴らも委員会でおらず(サボりじゃねェ、体調不良なんだ)傘を借りるあてもない。
どうしたもんか、と頭を掻いていたら赤い番傘を持ったセーラー服の女が横を通り過ぎた。間違いなくチャイナだ。俺は女の肩に手を置き、傘を奪いにかかった。

「おい、チャイナ、傘よこしやがれィ」
(びくっ!)

…ん?びくっ?
驚いて振り返ったその顔は、ビン底眼鏡のいけすかねー奴ではなかった。神楽といつも仲良くしてる女子だ。やべ、間違えた。つか、こいつとそんなに話したことないんだけど、どーすんの、これ。

「お、沖田くん?」
「…人違いでさァ。気にすんな、」
「傘、貸そうか?」

そう言って彼女は傘を差し出してきた。どうやら俺のために貸してくれるらしい。これがチャイナだったらそのまま頂戴していくところだがそうもいかない。

「…お前は?」
「走るよ。うち近いし」
「そんなん駄目だろィ。俺が走って帰りまさァ、じゃな」

彼女に風邪をひかれでもしたら困るので、俺は傘なんて待たずに走り去ることにした、が、ぐいと袖を掴まれた。驚いて振り向いたら彼女が見上げている。…なんかかわいい。

「風邪ひいちゃうよ。良かったら一緒に入ろう」
「でも、」
「大丈夫、誰もみてないよ。多分」

柔らかく微笑まれると、なんだか断れなくなり仕方なく了承した。


身長の低い彼女と並ぶため、必然的に俺が傘を持つことになる。彼女は自分で持ちたがったが、こればっかりは譲れない。なんたって屈んで歩くのは面倒だから。
いつもと同じ帰り道なのに、酷く違ってみえるのはすぐ近くにいる彼女のせいだろう。相合い傘なんて姉貴ぐらいとしかしない。と言うか初めてだ、多分。そう気が付いたらなんだか急にどきどきしてきて、この場から全速力で逃げ出したくなった。やっぱり彼女に傘を持たせれば良かった。そう言えばこの番傘のせいで彼女と相合い傘するハメになったんだっけ。

「この傘、どうしたんでィ」
「これ?あぁ、珍しいもんね。神楽ちゃんが誕生日にくれたの」
「なんつーセンスの悪いプレゼントだ」
「ふふ、そんなことないよ」

俺の軽口もさらっと流して彼女は笑った。いつもチャイナと一緒にいるから慣れてるんだろうな。

「沖田くん、はさ、」
「うん?」
「神楽ちゃんがすきなの?」
「はあ?」
「え、えと、あのねっ、いつも神楽ちゃんに構ってるから…すき、なのかな、って…。ほら!よく言うから!すきな子ほどいじめたくなるって!」

唐突の質問に拍子抜けした声を出すと彼女はおろおろしながら早口で捲し立てた。こんな姿もかわいいって思ってしまうのは、やっぱりSだからなのだろうか。

「…そんなんじゃねェ。ただムカつくだけでさァ」
「そっか」

良かった。
彼女が小さく呟くのが聞こえた気がした。もしかして彼女は俺を…いや、まさかな。

「あ、うちここだから」
「ん、ほら、傘」
「いいよ、沖田くん使って!」
「いや、悪い、」
「いいから!」

またしても彼女に押されて断れなかった。意外と芯の強い奴なのかもしれない。そういう奴は嫌いじゃない。
傘を俺に渡した彼女は走って門を潜って、玄関の前の屋根の下にたどり着くとこちらを振り向いた。スカートがひらりと翻った。

「沖田くんと一緒に帰れて嬉しかった、ありがとう。あのね、神楽ちゃんのこと本当ならこれから私…遠慮しないから」
「…え?」
「じゃあね!気を付けて!」

ちょ、ま、
なんて俺の制止も聞かず、一瞬で彼女は扉の向こうに消えた。彼女の家の門の前で傘を持って俺は立ち尽くす。
いやいやいや、ちょっと待て。彼女は何て言った?遠慮しないからってさ、アレだろ。狙いにいくから!みたいな宣戦布告。勿論恋愛的な意味での。アレ、さっきの勘が当たった?いやいやいや、待てって、なァ。そりゃ彼女が嫌いって訳じゃねェ。彼女はチャイナとは違って女の子らしくてかわいい、と、おも、うわー!俺どーすんの?どーすんの?つか、傘借りたってことは返さなきゃいけねェんだよな。って、俺どんな顔して返せばいいんだよ!あー明日学校行きたくねェ!



赤い傘の憂鬱
(取り敢えず、チャイナを一発殴っても許されるに決まってらァ)



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実に2年ぶりの夢小説です。
リハビリに企画巡りでもしようかと。

100225◎さくらあき

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