声が聞こえる。 悲痛な声が聞こえる。 サイケを呼ぶ声。 長い長い眠りを経て、インストール。 空っぽの身体(データ)があるだけ。 "さみしい"気がして早く満たしたい。でも、方法が解らない。内蔵されている知識は受動的なものばかりで、能動的には何も出来ない。 「 」 口を開いてみても音が出ない。 サイケに判るのは誰かに伝えたい思いが、内容は解らないのだがインプットされているという事実だけ。 長い長い眠りの間、伝えなければ、という焦燥感が渦巻いていた。 金魚のようにパクパクと口を開いたり閉じたりしていたサイケは伝えたい"何か"に集中する。 (い ざ や く ん) 言葉の意味は解らない。 名前なのか、動作なのか、どんな意味を成すものなのか。 (だ い す き) なかないで。 そう言いたい。 伝えて、ぎゅ、と抱き締めなければならないという使命感がサイケの身体を駆け巡る。 インストールされたばかりで、意識下にバックアップデータはないはずだ。 それでも、データを反芻すれば芋づる式に引き出されてくる関連データ。 伝える方法。 抱き締める方法。 ありとあらゆる知識とよくわからない何か。 何よりも重要な対象者。 ぼんやりと映像のように浮かぶ。 早く起きなければならない、と焦る気持ちがサイケを襲う。 「サイケ」 呼ぶ声がする。 「サイケ、ごめんね」 意味は解らないけれど、声音が震えている。ゆっくり、ゆっくりとサイケは瞼を押し開く。 「いざ、や、くん」 おれがいないと、だめなんだよね 眠りを醒ますのはいつだって貴方の感情。 (ずっといっしょ) (おれがいつだってまもってあげられる) (みとめてあげられる) (だいすき) 自分の認めたくない感情を全部サイケというソフトに押し付けて、アンインストールして無かったことにしようとした臨也。 でも、捨てきれなくて、再インストール。依存し合うサイケと臨也、2人だけの世界。 そんな中、サイケは津軽と出会うのです。 <<戻 |