※静雄と臨也は付き合ってる設定。 「あつい、ってどういうこと?」 座って煙管をくわえている津軽の首に後ろから腕を回しながらサイケが言う。 津軽はされるがまま、無言で発言を促す。 「いざやくんがさ、"今年の夏はあつい"ってぐたーってしてて、シズちゃんがゼリーあげてたんだー」 ゼリーっておいしいのかなぁ…。 一息で言ってから、小首を傾げる。 「あれ、なんのはなし、してたんだっけ」 「…あついって何って話じゃなかったか?感覚の問題か?」 津軽とサイケには生物ではないので"温度"という概念としての知識があっても感覚がないために実感が伴わない。 「あついってどんなのかなぁ…」 「汗なんかかかないしな」 津軽は自分の顔の近くにあるサイケの指通りが良い髪を梳きながら、思案する。 「…さみしい」 「?」 「だいすきないざやくんがツラそうなのになにもわからない」 顔を歪めたサイケは"泣き"そうな顔を浮かべる。あくまで、涙は出ない。 津軽は一層優しい手付きで髪を撫で、サイケを前に来るように促す。 「ん」 「つがる?」 きょとんとしながらも、促されるまま津軽の正面に回り自然に膝の上に座った。 「あ、でも」 思いついたようにポツリ。 「つがるとくっついてると、あつく、なってる」 そう言ってふにゃりとサイケが笑って、肩口に顔を埋める。 「そうか、」 (きっと、その意味も解からないんだろうな) 津軽はサイケの髪を撫でながら煙を燻らせ、小さく溜息を漏らす。サイケはそれには気付かずにぼんやりと「あつい、かぁ…」と小さく呟きながら、記憶をたどる。 「そういえば、まえ」 * ガチャリ 玄関の扉が開く音がしてぴくんと身体を震わせる。 「いざやくんっ」 津軽に似ているような気がして買ってもらったお気に入りの大きな白クマの人形を抱き締めてサイケが、臨也に駆け寄った。 臨也はサイケと白クマを交互に撫でてから少し申し訳なさそうな表情する。 「あ、サイケ、ごめん今日は駄目なんだ」 一緒に寝るの、我慢して? いつも帰宅した臨也にサイケが駆け寄り、臨也の仕事が一段落ついたらそのまま一緒の布団で横になるのが常だった。 「…なんで?」 「シズちゃんが居るから」 そう言って遅れて玄関の扉を開けて入って来た静雄を見やる。その手には、コンビニの袋がぶら下がっており、ビニール袋からは缶やつまみが顔を覗かせている。 (おさけのむのかな…) じっとサイケが見ていたのに気付いたのか静雄が苦笑して頭を撫でながら言う。 「悪ぃな」 未だに、日中に池袋で会えば喧嘩をしている静雄と臨也だったがいつ頃からだったか夜はどちらかの家で過ごすようになった。 (まえはおれだけのいざやくんだったのにな…) とらないで、と思ってしまうが、時々機嫌良さ気に波江やサイケに静雄の事を話してくれる臨也は好きだ。波江はほとほと呆れた表情をして全部言い終わる前に書類を臨也に投げつけるので、それをサイケが阻止するのが定石だ。 傍に来た静雄を見上げながらサイケは毎回同じ質問をする。 「おれはいっしょ、だめなんだよね?」 「あー…あいつが泣くから、それは止めてやれ」 あいつなりにサイケの事、大事にしてっから。 大事にされてる静雄にそう言われればなんだか悪い気がせずに、大人しくしようと、無理矢理納得する。なんだかんだで文句を言いながら二人そろって部屋に入り、中々出てこない。 サイケはそれを見送る事しか出来ない。 「へやのまえで、まっててもいいよね」 さみしいんだもん。 ソファから立ち上がり臨也の部屋を見て、決意したように頷く。サイケは白クマを引きずりながら階段を上り、目的地である部屋の前に着くとぺたりと床に座り壁に背を付けて座った。 何か音が中から聞こえた気がしたけれど、サイケは白クマを力強く抱締めて聞こえない振りをする。 「何か聞こえても、絶対気にしちゃ駄目だからね!」 という臨也の言う事は破れない。サイケにとっては、とても長い長い時間。目を閉じて、じっと時間が経つのを待つ。 ガチャリ 臨也の部屋の扉がゆっくり開き、それに合わせて、静雄が顔を覗かせた。 「シズちゃん?」 サイケが声を掛ければ、少し頬を掻きながら静雄が呟いた。 「悪ぃ、水、持ってきてくれねぇか」 あいつ、声出ねえ、あつい!て騒いでるからよ 申し訳なさそうにサイケに言えば静雄の背後から、かれている臨也の声が飛んでくる。 「シズちゃんががっつくからじゃん!ばか!しね!」 「な、手前が煽るから…!」 「俺のせいな訳!?あつくさせてんのはシズちゃんじゃんっ!」 「あぁもう喋んな!」 もっかいしたくなんだろ…! 「いっぺん死ねぇえええ!」 絶倫! その後はひたすら臨也が一連の会話をサイケに聞かれていたことに、動転し、更に騒ぎたてたために声が出なくなり静雄が懸命に慰めていた。 (なんか、しんせん) * 「ってことがあったの」 「…その熱いと夏にぐったりしてる暑いはちょっと違うと思うけどな」 「そうなの?じゃぁ、おれがつがるといっしょにいてあつくなるのは?」 「それもきっと違う。でも静雄と臨也がその"あつい"が有るから、部屋に二人でいるんだろ」 「…おれは、まじれないの?」 「臨也が泣くから止めておけ」 苦笑する津軽を余所にサイケは「シズちゃんにもおなじこと言われたけど、なんで?」と首を傾げてから、津軽のを顔を覗き込むようにして微笑む。 「ねぇもっともっといっぱいおしえて。あついのも、ぎゅっとするのも」 もっともっといざやくんをしりたい。 「…お前は本当に臨也が大好きだな」 少し寂しいと思う気持ちは拭えない。いつだって、サイケは口を開けば臨也の事ばかり話した。 「いざやくんはおれのこんぽん。でもね、つがるがおれのぜったいですべてなの」 わかってる? サイケの言葉を噛み砕くようにゆっくりと津軽は呟く。 「だから、サイケの大元の臨也をもっと知った上で、俺にもサイケ自身をもっと知って欲しいってことなのか?」 「うん」 花がぱぁっと開くような満面の笑み。 津軽の首に抱きついたまま、サイケは片手をするりと津軽の胸元に滑り込ませる。 「ねえ、つがるはおれといて……"あつい"?」 その表情や声音は臨也の色気に通じるものがあり、津軽は小さく喉を鳴らした。 (たまらない) サイケという個でありながら、根本である臨也の要素も兼ね備える。 (本当に、飽きない…たまらない) 貪りたい、と。 「ねえ、つがる?あつくして、わからせて」 伝染熱 (君から伝わる熱、伝える熱) 初めて、つがサイのがシズイザよりメインの話…? 識っていても、理解できない事ってあるよね、っていう。 サイケは臨也(ベクトル違い)⇔津軽>>>>(越えられない壁)>>静雄 <<戻 |