「今年は轟さんに気持ちが伝わると良いねえ」
ちゃんと短冊にお願いしないとね。



そうやって笑う相馬を残酷だと、佐藤は新しい煙草に火を点けながらぼんやり思う。

(俺が相馬が好きだと言ったら、どうなるんだろうな)

北海道の七夕は一ヶ月遅れの八月七日。


「ほら、佐藤くんも何か書いておきなよ」
どの色が良い?


色とりどりの紙を拡げながらも、相馬の視線は飾付けられた笹に注がれている。

「色んな人のお願いが詰まってるねえ」
盗み見て、それをネタに色々お願いしちゃおうかなぁ。

けらけらと器用にペンを回すが、視線は一向に佐藤には向けられない。今日は未だ一度も目が合っていないことに今更気付き、首を傾げる。
いつもにこやかな笑みをたたえ、瞼を開けば吸い込まれるような深い藍色。

「…相馬」
「なぁに、佐藤くーん」

無意識なのかと思ったが、名前を呼んでみても相馬の視線は笹に向けられたままなのを不思議に感じる。煙草を灰皿に押し付けて、相馬の元に歩み寄り、座った相馬を見下ろすように眺める。


(…旋毛が、可愛い)


ふと、全然違うことを考えてしまう自分に苦笑しながら再度問いかける。

「なんで、目、合わせねえんだ」
俺、なんかしたか。

少し語尾が小さくなるのは、きっと寂しい、という気持ちが込められている。

「佐藤くん、何色が、いい」

佐藤の言葉を無視した上で、相馬がこつんと机を叩き拡げられた色紙に意識を向けさせる。
「藍色」
お前の色。
そう言えば、一瞬相馬がピクリと反応してから、小さく呟く。
「黄色や橙色・桃色、じゃなくて、いいの」
轟さんぽいよ。
薦める声音は小さく弱い。
「藍色が、いい」
「そっか」
頷いた相馬は、ゆっくりと藍色の短冊を佐藤の前に差し出した。



「宜しく、お願いします」



「…それは、自惚れて良いか」
「うん、自惚れてよ」
佐藤が短冊ごと相馬の掌をしっかりと握る。
「こちらこそ、末永く宜しくな」
「ふふ、なんか変なの」
じわりじわりとお互いの熱が掌から浸透していく。
「もう、我慢しなくって良いんだよね?」
「なんか我慢してたのか」
お前が、か。
佐藤が不思議がれば、ひどいなぁと苦笑した相馬がこつんと佐藤の胸に頭を預ける。
「いちお、毎年、"佐藤くんが幸せになりますように"てお願いしてたんだからね」
いつも苦しかったんだよ!
「それでかえって上手くいかなかったんじゃねえの?」
「ひどっ」
「あー…いや、俺幸せだわ」
「えっ」
相馬が顔を上げれば、優しく微笑む佐藤と目が合う。格好良い、と思わず息をのむ。
「うっ」
「…んだよ?」
「なんでもなーい」
自分ばかり好きな気がして、割りに合わないと相馬が頬を膨らませれば、佐藤が口を尖らせて言う。

「なんか俺ばっか好きみてえ」
「え、何言ってるの!俺に決まってるじゃない!」
「はぁ!?」
「えぇ!?」











揺るがない望み1つ
(今年のお願い事…)
("幸せです")
(え、報告!?)








短冊の色で、八千代ちゃんか相馬を暗に選んで言ってるって話です。
解りづらくてスミマセン。
折角だから、北海道の七夕合わせにぺろっと。



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