「手、出して」


今日も今日とて平和な休憩室。
伊波の被害に合うこともなく、ぼんやりと過ごしていると、にこにこと楽しそうな笑みを浮かべた相馬がぽつり。佐藤の眼前で両手を開いて閉じて主張する。


「?」
「いいからいいから」
変なことしないよ


首を傾げる佐藤を余所に、焦れた相馬が手を取ってまじまじと見詰める。
そして掌を表裏と返して、ゆっくりと指先から根本へと視線を移す。そして満足そうに、自分の掌と重ねて指を絡ませた。


「…相馬?」
いちいち仕草にドキリとしてしまう自分に舌打ちしたくなる。佐藤には相馬の仕草が狙ってやっているのかは判断出来ないが、相馬に煽られている事実だけは確かだった。
「なぁに」
ふわりと笑うのに悔しくなって、握られる手を振りほどいた。
「あっ」
切なそうな顔は見ないふりして、自分の気持ちを誤魔化すように佐藤はぐしゃぐしゃと相馬の髪を混ぜた。

「いたい、いたいよ、佐藤くん!」
優しくしてよ。

頬を膨らませて、頭に乗せられた佐藤の腕を取って、ぎゅ、と両手で握り締めた。
大事そうにもう一度指を絡める。


「俺、佐藤くんの手、好き」
ふわりふわりと笑う。


「料理が上手くて、轟さんに触れたくても触れられなくて、種島さんで八つ当たりして……俺に触れてくれる、手」

歌うようにゆっくりと言いながら、絡めた指で遊ぶように握ったり開いたりする。
「……相馬」
「佐藤くんがね、俺を好きじゃなくたって良いんだ」
俺が好きなだけで満足だから。
「勝手に完結すんな」
「だって佐藤くんは轟さんが一番に好きでしょ」
自嘲気味に、片方の指は絡めたまま、もう片方の人差し指を佐藤の唇に押し当てる。
「俺、は、」
(確かに轟が好きだったけれど、)
なら、何故こんなにも相馬の仕草に煽られるのか。



「だーめ」
踏み込まないで。



何も聞きたくないというように相馬は目を閉じる。もどかしくて、相馬の指を今度は自分から絡めて佐藤自身に引き寄せて小さく力を込めた。
「相馬」
感情を圧し殺すように呼んでから、絡めた指、一本ずつ口付ければ、思わず相馬の口から甘い吐息が漏れる。
「…ぁ…っ」
「言っても聞かないなら、行動で感じとれ」
ずっと、俺を見てきたなら解る筈だ。
誰に向かって笑って、喋って、触れていたのか。


「俺の手は、触れたいものに、触れてる」
だから。


最後までは言わない。
言葉はいくらでも重ねられる。
「…さと、う、くん」
相馬は恐る恐る指を絡め返して、指に唇を寄せた。佐藤はその手を引き寄せて相馬に口付ける。
「んっ」
最初は啄むようなリップ音を伴う口付けから、何度も角度を変えてお互いの呼吸を奪うように深くしていく。

「んぁ…ふっ…」

呼吸の合間にどちらとも取れない甘い吐息。

「ぅ…ん…っ」

夢中になって舌を追い掛けて絡めとる。唾液が口許から零れ、絡まる指に滴る。

「…は…ぁっ」

息が続かなくなって、唇を離せば銀糸が舌を繋いだ。




「これでも、伝わらないのか?」
切な気に眉根を寄せた佐藤の顔を目にした相馬が何かを言おうとした時。




「こほんっ」


声をする方を見れば小鳥遊が入り口に仁王立ちをしていた。
「2人とも、ここが皆の休憩室だって忘れてませんよね?」
俺だったから未だ良いものの。
他の人なら大騒ぎだったと暗に言う。
「た、小鳥遊くん…見てた?」
「えぇ、もうばっちり」
呆れてものも言えないと肩を竦めた。
「…そういうのはせめて更衣室に鍵閉めて、とか、家で、とか配慮が必要ですよ!」
誰が同僚の、しかも男同士のラブシーンが見たいものか。
小さくて可愛いなら話は別だが、と辺りを見渡してからこそりと言う。


「つけときますよ?」
今日は客の入りが少ないから人員的には平気ですよ。


それを聞いた相馬がふわりと幸せそうに笑う。
「貸し、ね」
佐藤に向き直った相馬は指を絡めたまま、上目遣いに言う。





「ねえ、早く身体に刻んで」
佐藤くんの愛。
そうしたら信じられるから。







不安昇華
(拭えるのなら、何度だって、言葉で、行動で伝えるから)
(どうか)












身体だけは繋ぎ止めても、なかなか佐藤が信じられない相馬。
手フェチの私は、指やら手やらの仕草にエロさを感じて止みません。言葉よりも行動の愛情表現。



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