「……あ、」


ゴミ箱に煙草の箱が捨てられていた。ちらりと見れば覚えのある銘柄。


「シズちゃん」


思わず名前を呼んでしまい、その声が思いがけず甘い色の声だったことに自分自身驚く。
小さくため息をつきつつ、ゴミ箱から煙草の箱を取り出す。

「…家の中で吸わないでって言ってるのに」
波江にばれてしまう。
臨也と静雄のもう1つの間柄、セックスフレンド。

「でも」
箱を鼻に近付ければ嗅ぎ慣れたアメリカンスピリット メンソールライトのにおい。
「…ここに、まだ」
居るみたい。
箱を傾ければ、ころんと未だ吸っていない煙草が1本滑り落ちた。


「……」


無言で拾い上げて、口にくわえた。目を閉じて、瞼の裏に静雄を思い描く。
どんな風にフィルターをくわえ、紫煙を燻らせ、臨也を見るか。
身体の奥で先程までの情事の熱が燻ってくる。


「…シズちゃん」


呟きながら、ライターを探す。その時、ふいに頭にライターがぶつかった。

「あぃたっ」
「手前、煙草なんか吸ったっけか」

飄々とした声が投げられる。ライターの当たった頭を撫でながら、ゆっくりと声のする方を向けば扉に寄っ掛かった静雄が居た。


「帰ったんじゃ、なかったの」
ヤッたら満足でしょ。


思わず刺々しい言い方になってしまうが、起きた時に隣に誰も居らずに、思いがけず煙草の箱を見て感傷的になったのは認めたくない。


「拗ねてんのか」
「自惚れんな」


ピシャリと言い放つ。
手元で先程までくわえていた煙草を弄りながら、静雄から視線を外した。


「…手前、意外と可愛いとこ有んのな」
寂しいなら、言えよ


苦笑しながら、静雄は臨也の座るベッドまで近付く。

「寂しく、ない」

臨也の手元にある煙草を、ごく自然に奪い自分の口許に持って行き、ゆっくりと臨也に見せ付けるように唇を舐めた。

「…生意気」
「いつも手前がやってんだろ」
「俺は良いの」
「理不尽」
「だって俺はシズちゃんとしたいもん」
だから誘い放題なのは文句ないでしょ。

暗に静雄は臨也の身体が目当てだと罵った。それを聞いた静雄は肩を竦めて、煙草を片手に持ちながら臨也を軽くベッドに押し倒す。


「俺も、とは思わねえのか」


「…煙草火点けないでね、火事になる」
「話反らすな。…それに手前は俺が煙草吸ってんの好きだろ」
「煙草に罪はないからね」
「素直なれ」
ベッドに腕で臨也を縫い付けて、耳元に囁きながら、息を吹き掛ければ情事の息遣いを彷彿とさせてぴくりと身体が跳ねた。


「た、とえば、」
至近距離にある静雄の顔から視線を反らして、布団に顔を押し付ける。
頬が熱い。
(なんだか、翻弄、されてる)
いつだって主導権は臨也で、静雄の理性を揺るがし欲を思うがままに煽り、極上の快楽へと駆け上げさせたのは紛れもない常の臨也である。
こんな静雄の強引な一面は知らない。
知らない感覚に、いつもなら口にしない願望が零れる。


「まいにち、会いたい。ヤりたい。たまには優しくして」
なんてね、と言って臨也が笑って誤魔化そうとすれば真摯な声に思わず静雄を見た。
「手前が望むなら」
イラつくのは変わらねえから、たまに殴るかもしれねえけど。


「…えっ」
「何、驚いてんだ」
「…俺愛されてるの?気持ち悪いよ?ドッキリ?」
「手前はほんと騙しすぎだ」
自分も含めて。
だから、少しは幸せになれよ。と静雄は華奢な身体を抱き締めた。その感触に慣れない臨也は身を捩りながら、腕から逃れようとする。


「ねぇ、」
「なんだ」
ぶっきらぼうに静雄が逃げる臨也をさらに強い力で押し止める。
「おれ、嬉しいって思ってる、どうしよう」
自分で理解出来ない、とでも言うように複雑に顔を歪める臨也の頬を口付けた。


「良いじゃねえか」


そう言った静雄の顔は悪戯が成功したような無邪気な笑顔。
「!」
「どうした」
「……」
思わず顔を真っ赤にしたのを知られたくなくて臨也は静雄の胸に顔を押し付けた。


(こんな、顔、俺にも、見せてくれるの?)
どうしよう、格好良い。
もっと、と望んでも良いのだろうか。
ぱくぱく、と口を動かしてから、臨也は迷うように視線を彷徨わせる。


「キスして」
めいっぱい、愛して。





Yes, my honey.
(こ、こんなデレ、耐えられる気がしない…!!!)
(おもしれぇ位真っ赤になるのなー)
((だいすき!))











これから、エロって感じで^^
えぇと、一度書いてみたかったのですが、…もう何番煎じか分からないネタなので…スミマセン。
いつもより甘めじゃないかな!!
夏なので甘い話強化期間という事で。
今度はつがサイもまぜまぜしたい。





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