「大好き!」


耐えきれなくなった沈黙、そこで静雄に向かって一言。
特に他意は無く、ただ反応が見て見たかったこと・暇潰しになるかな、程度の軽い気持ちだった。…小さな本音は隠して。
今日は勝手に臨也が静雄の家に不法侵入し、勝手に部屋の物色をしていたところに疲れきった家主が帰ってきて無言で見つめあい、冒頭に戻る。


「あぁ!?」
「なぁんて、う「マジか…!!」」

嘘、と言おうとした言葉に静雄の発言が被さってきた。
どういう意味だ。何事だと、静雄の顔は真っ赤に染まっている。更に現状が解らなくなり、臨也は首を傾げた。
「無事?ついに頭沸いた?風邪?」
風邪なら近付かないでね。
今仕事忙しいんだから、と距離を取ろうとしたが腕を掴まれ阻止された。

「今のは本当か!?」
「いや、だからね、う「本当なんだな…!!」」
「……人の話聞けよ!!」
最後まで言わせろ…!

苛々した臨也が静雄の足を勢いよく踏もうとしたところを、化物並みの瞬発力で避けられ体勢を崩したところを抱きすくめられる。

「………うっざ」
ほんと死ね。

ぼそりと、呟いた臨也の声は届かずに静雄の腕の中に納まりながらポケットの中のナイフを確認した。そして、静雄の顔を覗き込むように言う。
自分の小さな本音は上手く伝わっていない。相手は静雄なのだから、下手に期待した言葉は返してはいけない。


「…俺がシズちゃんを好きだと嬉しいの?てかさ、シズちゃんてばまさか俺の事好きなわけ?もし、そうなら、お笑い草なんだけど?」
「大嫌いだ」
「………」

地味に傷付いた自分に更に傷付いた。言われ慣れている筈の言葉も、シチュエーションによってダメージの増減に変化有り。…人間は、興味深い。
自分にはあまり興味はないけれど。


「あぁもうやだっ!津軽!召喚!」
「は!?」
『…呼んだか』


部屋の奥から煙管を手に持った津軽がゆっくりと歩いてくる。視界に入ると同時に臨也が静雄の手枷を振りほどいて、案外簡単に抜け出せたことに一抹の寂しさを感じながら津軽に抱き付いた。
(抱き締めるならしっかりやれよっ)
見当違いの事を胸中で罵る。


「『な!?』」
反応に満足そう臨也が津軽の首に腕を巻き付ける。


「いいよね」
貸しにしといてあげるから。


津軽は苦笑して、慣れたように
『サイケに会わせろよ』
と言いながら、頭をくしゃりと撫でそのまま後頭部を支えるように手を添え口付けようとした。



「ッッざけんな…!!」



静雄が勢いよく臨也を自分に引き寄せて抱き締める。
「……シズちゃん…なんなの」
俺、津軽とちゅーしたい。
「俺と同じ顔が手前としてんの見るなんて胸糞悪ぃだろ…ッッ!!」
「…それ、気持ち悪いってこと?やきもちなの?」
「知るか!!」
苛々としながらも抱き締める力は緩まない。
「ブブー」
それじゃ赤点。
(でもさっきより抱き締めてくれる力、強いのはポイント高いかな)
臨也がふわりと笑ったのを見て静雄は一瞬ドキリとした。その後、臨也の人差し指を唇に押し当てられ、いつもの企むような笑みを浮かべる。

「素直に言って」
俺が好きだって。
自分以外が俺と話してるの面白くないんでしょ。
「…俺は言ったよ?」
じ、と静雄を見詰める。ごくり、と喉を鳴らす音。心臓の音はもうどちらのものかわからないくらいに大きい。自由になる片手を小さく津軽の方に向け、手だけで「ごめん」と謝る。
肩を竦めるような布が擦れる音がする。

(今度サイケとのデート許してあげよ)
…俺の前でキスしたらしばくけど。





「ねぇ、」
緩慢な唇の動きで誘う。
赤く染まっていく顔を眺めながら後一押しだと、自分の唇を舐める。
「…シーツの上で聞かせて?」






いまの、及第点
(とんだ獣だ…そんなヤツが気に入ってるのは俺なんだけど)
(ってく、マジで肉食系だな…あいつ)











"好き"というか"気に入ってる"。




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