※津軽マスター:臨也









「君は殴らないんだね」



少し寂しそうな表情を浮かべる臨也に津軽は淡々と返答する。


「そうプログラムされてないからな」
「うん、たしかにしてないや」
それを望んでないしね。


自嘲気味に手元の書類に再び目を落とす。それには津軽の設計図や検討事項、様々なプログラムが書かれている。



*



津軽は新羅と臨也の共同開発で造り出されたアンドロイドだ。風の噂で、静雄と共に造り出されたものが一体有るらしい。
元々乗り気では無かった新羅を臨也が口八丁で納得させ、開発へと相成った。


「考えてもみなよ、例えばアンドロイドの皮膚を人間に近付けるためには君の出番だよ?身体機能を何処まで持たせるか、保てさせるか、そしてそれが時間経過と共に如何に細胞を腐乱させずに生き永らえさせるか」
ねえ、腕の見せどころじゃない?


臨也らしくない言い方だったが、新羅は苦笑しながら共同開発に頷いたのだ。
「本当に君らは似ているよね」
思うところが有った。
臨也には言わなかったけれど、同時期に似たような話を持ち掛けられていた。深く追求しないまま、新羅はどう自分の分野に引き寄せて開発しようか思案する。

「どんな風にしたいんだい?」
「…どこぞの喧嘩人形、…みたいに」
そう言った臨也は普段の企みを含んだ笑みとは180度異なる切なそうな笑みを浮かべて遠い目をした。


「……そう、」
深くは聞いてあげない。


首を突っ込むのは野暮だと思う気持ちと探求者としての興味とが新羅の中で交錯する。だが今回は黙って協力、という形をとるのが最善だろう、と判断した。
そうして何年も掛けて作られたのが津軽だ。


「本当に、よく、出来てるねえ」
さすが、新羅と俺。


臨也は、新羅に対してひらりと笑った後、まじまじと津軽を見据える。決して触れはしない。


「名前は、津軽、だよ」
君のモデルになった奴が高校の時に歌った歌から取ったんだ。


そう言う臨也は懐かしそうに
「ね」
と新羅に促す。
「あぁ、たしかに歌ってた。それも何故か凄く上手くて驚天動地だったね」
頷いて笑う新羅の横で臨也が俯いた。


「ほんと、よく、似てる」


「…臨也?」
臨也が顔を上げると同時に勢い良く懐に持っていたナイフを繰り出して津軽の首もとに押し当てる。
「………」
反応を求めるようにじっと臨也は津軽を見詰める。そのままの臨也に後ろから新羅が声を掛けた。
「何やってるんだい、君は…!」


「はは、試しただけだって!やだなぁ、折角造ったのを壊したりなんかしないよ、すぐになんて!」


そう笑う顔が痛々しくて、新羅は言及することも出来ずに開いた口を静かに閉じて肩を竦める。
「はいはい気を付けておくれよ?この私がセルティとの時間を削ってまで開発に携わったんだからさ!こんなことしてる間にセルティが何か可愛いことしてるかもしれない!あぁいやいつも彼女は可愛い!美し…」
「うんうん、解ったから帰って良いよ有難う」
止まらない新羅を遮るように口を挟んで視線を扉に向ける。
「あ、開発費とか後日請求してくれる?言い値を振り込むから」
「…言い値で良いんだ」
ふわりと笑って小さく「愛だね」と呟いた言葉は臨也に聞こえることもなく宙に溶けた。

閉じられた扉に向かってポツリ。
「あ、僕、ちょっとオマケ付けておいたからね」


そうして臨也と津軽の不思議な生活が始まった。



*




一緒に住み出して、津軽には1つ気になることが出来た。

週に何度か酷くボロボロになって帰宅すること。酷い時はソファまで歩くことが出来ずに、玄関の扉に背中を預ける日もあった。
そんな日の臨也は、普段なら自分からは近付くのに、ただひたすら一定の距離を保つ。津軽が少し近付いてもその分離れるのだ。寝室に運んだり、手当てしたりしたいのに。
何度も繰り返されたその距離感にもどかしくて呟いた。


「モデルになったヤツとはどんな関係だったんだ」
その怪我と関係有るのか
「…腐れ縁の悪友、かなぁ。出会って直ぐに殺しあいの喧嘩した」
「それって、"友"じゃない、だろ」
「一般的な物差しじゃ計れないんだよ。津軽には一通りの知識を内蔵させたけど…感覚的なのは難しいかもね」
あ、じゃぁ、あいつより頭良いのかな!変なの!
今からカスタマイズで頭悪くするっていうのも微妙だよね。臨也はひどく無邪気そうに笑う。

「大っ嫌いで大好き。殺したい程憎いんだけど、胸が締め付けられそうになるの…」
目をつぶって小さくため息。



「これって、なんて、いうんだろうね」



「…わからない」
「うん、」
知ってる。君に答えは求めてないよ。
そう言われれば突き放されたようで、何も言えない。
「でも、なんだか俺はお前を…」
「ストップ。駄目だよ、津軽。駄目だ」


一歩、津軽から離れて
「今、この距離に来て良いのは一人だけなんだ」
ひらりと身を翻す。怪我を感じさせない軽快な動き。
「津軽を見てるとね、思わず名前を呼びたくなっちゃうんだよね、…ゴメンね」
身代わりにする気はないんだ。そのナリにした自分が言う資格はないけれど。
その笑みは歪んでいたけれど綺麗だった。



「ねえ津軽、いつか、頭撫でてくれる」
今はその勇気は出ないけど。

(今直ぐにだって撫でてやりたい)
でも距離は縮まらない。


(この感情は、なんて、いうんだ)


(抱き締め、たい)





*



「ふふ、どうなってるかなぁー」

新羅がコーヒーを傾けながら、セルティの横に腰掛ける。
『どっちのだ?』
「どっちもだよ、ちょっと上手くいくかの実験も兼ねて弄っちゃったんだよねー」
臨也と開発した"津軽"と、静雄と開発した"サイケ"に。
『何したんだ?静雄に何かあったら怒るぞ…!』
「ちょ、妬けるんだけど!?てか臨也は良いの」
『……まぁ、で?』
「当人の感情、記憶の断片、みたいのをプログラムに組み込んでみたんだ」
『そんなこと可能なのか?』
「分からないよ、だから、実験なんだってば」
自分の専門領域から逸脱した開発に携わって、自分に利益が残らなくてどうする。
今回の実験が成功すればセルティと自分の未来はさらに明るいものになるだろう。…悪く思わないでね。
『新羅?』
「なんだぃ、セルティ!今日も可愛いね!愛して…ぐはっ」
綺麗な右ストレートが新羅の鳩尾に決まった。






道化師の願い
「上手くいって欲しいとは思ってるよ」
またオマケ(実験)を兼ねたサポートしたいと思うくらいに。











甘いのが書きたかった筈なのに、この様でした。
LO◯Eどっきゅん(こういう歌有るんですよ、凄い色んな意味で元気出ます)な話にしたかった…また薄暗い中途半端な話になってしまいました。
シズちゃん+サイケsideや続きを書いてみたいなぁ…と思いつつ。

私自身は大変楽しかったです。
いつかこの臨也は津軽の前でだけ泣けるようになって、シズちゃんがそれ見てモヤモヤしたら良いです。
新セルの新羅はセルティとの関係のためなら手段を問わないイメージ。いつだって全力。

夏なのでエロや甘々かきたいッス。

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