いつもよりボリュームを上げれば自分だけの世界の出来上がり。


サイケは、じっと膝を抱えて自分の膝に額を擦り付けて、ヘッドフォンを耳に押し付ける。
流れる音楽は今マスターが調整中のサイケの新曲だ。



自分の世界に入り込んで、音を、思いを探す。
どんな風に想いを込めようか。
考えながら、一層強く自分の膝を胸に引き寄せてた。


(つがるにあいたい)


頭を撫でて、あの低音を耳元で囁いて欲しい。
心地よくてくすぐったい津軽の声が紡ぐ音がサイケは好きだ。



自分の曲に集中しなくてはならないことは解っていた。それでも物足りない。

耳元から聞こえている筈の音も、ヘッドフォンの外側の世界の音もサイケには曖昧で現実味を帯びない。
自分は本当に喋れているのか、歌えているのか。


「…つがる…」
小さく呟いてみて、体内が自分の言葉で振動してるを感じて、あぁ、自分は居るんだと安心する。


「つがる」
もう一度呟いて、少しずつ気分が高揚してくるのを感じた。名前を発するだけで胸に広がる暖かい気持ちにサイケは膝を抱えながら小さく笑う。


「発音練習か何かか」


くしゃり、と頭を撫でる"音"。そしてサイケの好きな低音が鼓膜を震わせる。


「…つがるっ!」
抱えていた膝を解放して、満面の笑みを津軽に向けて手を広げる。

津軽がサイケの頭を撫でるときは「甘えて良い」という合図。
サイケの広げられた腕に向かって一歩踏み出すのと同時に、津軽の胸にサイケが飛び付いた。
体勢を崩すことなく、慣れたように抱き留められた体の力が一気に抜け、胸に顔を押し付ける。力が抜けるのを感じて、津軽はサイケの頭を頭を撫でて誰にも気付かれないくらい小さな笑みを浮かべた。



「ねぇ、つがる。また、やって」

猫ならゴロゴロ言ってるだろうご機嫌なサイケが上目遣いに見詰める。
「………」
「いいじゃん、へるもんじゃないよ」




*




それは未だサイケがうまく歌が歌えなかった時に津軽がやったことだった。

発音の仕方、音の出し方、聞こえ方が分かるように、音は震えるものだと。津軽がサイケの手を取り自分の口を塞がせた。
そして

「さ い け」

と発音した。
サイケは手が震えるのを感じてくすぐったくてピクリとする。その反応に口角を上げた津軽は続いて

「つ が る」

と。音を受け止めて、サイケはまたピクリとしてから嬉しそうに笑った。
そして、手を津軽の口から離して大事なものを抱くように自分の胸に当ててぎゅっと握る。暫くして余韻に浸っていたサイケがお返しとばかりに、津軽の手で自分の口を塞いだ。

「つ が る」
と、至極幸せそうに発音した。




*


まじないのようなもので、やった後はお互いにモチベーションが上がるのを感じた。


初めてまじないをやった時から、サイケは津軽の声が、音が自分の中の全てになった。
気分が沈んだとき、上がってるとき、いつだって津軽の声を聞いていたいと。
閉じられたヘッドフォン越しの音でなく、直に感じたい。



麻薬のような中毒性。



普段はそこまででも無い筈だが、感情があるラインを越えたり下がったりした時に無性にこのまじないをやりたくなった。


(つがるも、そういうとき、あるかなぁ)
有ったら嬉しいなぁ、と思いながら、まじないをする。
囁かれる言葉はいつも同じではなく気まぐれな羅列だが中毒性があった。

理由や原因はサイケにとってはどうでもいいことで、ただ繋がっていられる理由があるのに喜んだ。


そして今日もまじないを終えて満足そうな笑顔を浮かべたサイケに津軽は
「いけるな?」
と視線を交わらせて問う。
「いける」
先程までの不安定そうな様子はなく、自信に満ち溢れた表情を浮かべた。聞いてってくれるよね?と付け加えながら津軽から一歩離れる。



「サイケ」
マスターの気配がしたら、暗黙の了解で甘える時間は終わる。

「んじゃね」
「おう」
口数が多くない分、津軽は目で語る。少しの心配そうに揺れる瞳に、サイケは津軽の瞳を掌で覆って、
「またなでてね」
と笑った。


「サイケー?」
声が聞こえる。
「いま、いくー」
返事をしながら、今まで隔絶されていた音が蘇るような気分だった。

(やっぱりつがるはすごいや)








密やかスイッチ
津軽とサイケの間にある2人だけの合図。








小説殆んど書いたことないので、愛が空回るのですが初津軽×サイケです。
このカプ、大好きです。
サイケが目に見えて依存、津軽は分かりにくく依存してれば良いなぁ。
依存している過程とか書けたらいいなぁ…。
でも依存云々なくってわっきゃわっきゃしてる可愛い感じも好きです。
津軽は色気、サイケは可愛いイメージです^^


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