状況を把握したい。 臨也の願いは一つだった。 踞って頭を抱えようにも、しっかりと静雄に抱き締められて身動きがとれない。 「つ、月が、で、出てるね」 「ん、…おぉ」 自分でも何を言い出したかと呆れるような言葉しか出てこない。 不意打ちの出来事にはそれなりに乗り越えてきたから、対処できるものだと自負していた自分を罵りたい。 そして普通に返事をする静雄もどうかと思う。臨也は腕の枷から抜けようとするもののびくともせず、嘆息した。 今の状況はどういうことだ。 (新手の攻撃なのかな。抱き殺す!?それなら腹上死のがロマンがあっていいよねえ…うわ卑猥卑猥。大体シズちゃんにそんな甲斐性ないよなー。てか俺がネコとかありえないっしょ…え、じゃぁシズちゃんがネコ…?デカイけど可愛い反応しそうだよね…て、ないないない!!) 落ち着け自分、第一なんで静雄とデキている設定なのかを問いたい。日々、絶賛殺しあい中の臨也と静雄だ。思考が変な方向にいってしまうのはきっと今までにない状況に陥っているからだ、と無理矢理納得させる。 臨也は唯一自由に動く頭を振って気分を落ち着かせようとした。 「ノミ蟲?」 「何かな、シズちゃん。そろそろ説明か攻撃…動きが有っても良いと思うんだよね」 首を傾げて自分よりも上にある顔を覗き込む。 (ほんと無駄にデカイなぁ) だから、いつでもどこにいても 見付けられるんだ、と一人改めて頷く。 (断じて静雄から目が離せないわけではない) 言い聞かせるように思う。 「!………」 「らしくなくて調子狂うんですけど」 一瞬ピクリとして以降、アクションを起こさない静雄に対して、徐々に苛立ちを感じていた。 真意が掴めない、読めない。 いつだって静雄は臨也の予想の斜め上をいくが、今回はそういう範疇ではない。根本的に理解が出来なかった。 …嘘だ、本当は"解る"が"納得"とは程遠い。 「意味があるのかな」 ついと出た言葉に臨也自身が驚いた表情を浮かべ、静雄が首を傾げる。 (なんだ、この人、デカい割りに反応可愛いとか反則だろ) 静雄が嫌いだけど、好きだ。 相反する気持ちはかえって居場所が紙一重だ。 愛しすぎてそれが憎しみに変わる、愛憎と同じようなものだろう。 「何がしたいんだよ」 「俺は今の生活が幸せだ」 「…幸せ自慢?」 「幽ともトムさんともセルティとも他の奴らとも上手くいってる…一人が嫌だって言ってた俺が、この力が有ってもそれでも人と繋がってる」 「それがどうしたの」 苛々した色を隠さないで吐き出す。 「手前は人を愛してるって言いながら、手前はいつだって独りだ」 「独り、じゃない」 「独り、だろ。大体手前が周りをコマとしか思ってねえしな」 言葉を区切って、何処か優しい声音で囁く。 「俺がお前と繋がっててやる」 嫌いだけど、と。 「……意味が、分からない」 静雄は高校の時に初めて見付けた"スパイス"だ。いつもように、暇潰しの材料として面白いと感じるものの筆頭だった。 「俺もコマか?」 「キング」 「…良い度胸だ」 こめかみをピクリとさせたが、変わらず二人の距離は近い。 鼓動が聞こえそうだ、という乙女思考は持ち合わせていない。動悸息切れがあるとすれば、生命の危機に対してだ。 「大体さァ、こんなことしてて時間の無駄とか思わねえの。俺だって無職っちゃ無職だけど、素敵で無敵な情報屋さんはこんな景気だから大忙しなんだけど」 「…うっせえ」 「要領を得ないよ、何が目的で何を求めてんの。はっきりしろよ、言葉下手なら行動で示せ」 キッパリと言い切って肩を竦めた。そうしてから交えていた視線を俯くことで外してぽつりと言う。 「じゃないと俺… 」 (なんて本気で言うと思…え!?) 目を見開いた静雄の表情に満足気な表情を浮かべて臨也は舌を出して挑発するようにヒラリと静雄の腕の拘束から抜け出した。 「ばぁーか」 (あんな顔されたら俺が照れる…わけないっっ) 「手前ぇ…!!」 瞬発力には自信がある臨也だが、本日は静雄の踏み込みの方が一枚上手だった。 繁華街に抜けようとしたその腕を掴まれいつの間にか先程までの距離感に逆戻りとなる。 「忘れもんだ」 「はぁ!?…んんっ…う、んぁ…」 一方的に唇を奪われ、呆気にとられている内に口内に侵入した舌が歯列をなぞる。 (なんか、慣れてない…!?) いきなりキスをされるということよりも思わず"慣れてる"ことにイラッとするのを止められずに、無意識にバーテン服を自分の方に引き寄せて一度口を離してから、自ら噛みつくように口付ける。 「…んっ」 「ん、……はぁ…ど?俺のテク…んぅ……ふ」 「死ね」 ご馳走様、と唇を舐めながら視線は静雄から外さない。 (煽り倒して逃げよ) あとはどんな仕草が効果的か、そんな事を思案する頭はもう密着している状況に慣れたのか思考がはっきりしている。 「……」 少し考えるように黙ってた静雄が 「今のが答えか」 と抱き締める力を強める。 「なに寝惚けた事言ってんだよ、意味分かんねえ」 居心地悪そうに臨也は身を捩った。 「お前はすげえムカつくし殺してえ」 「俺だってシズちゃん殺したいよ。つーかマジさっさと死ね」 「でも居ないのも想像できねえ」 「矛盾してる」 (その気持ちは解らなくもないけど) 少し思案するように視線を泳がせてから、臨也は決心するように言った。 「試しに聞いてみたいんだけど、俺の事好き?」 「嫌いだ」 「あは、即答!さっすがシズちゃん。俺も君が嫌いだよ」 言ってから、 「でも、たまには、いいよ。盤上に入れて……キング」 こてん、と肩に頭をのせた。 「…おぉ」 「でもさぁ…、シズちゃんがキス上手いのが腑に落ちない」 「気持ち良かったのか」 「自惚れんな、死ね」 位置レボリューション どっちかが動かないと始まらない シズちゃんは"人"らしくなればなるほど、臨也を嫌いだけど放っておけない気がする。 <<戻 |