恋の偵察(4 / 30)

ピンゴーン!って音と同時に「っらっしゃいませーっ!」直人さんの声に自然と笑顔が漏れる。

入口にいる私を見て「ゆきみちゃん?今日シフトじゃないよね?」小首を傾げて眉毛を下げている。

いつもより少し気温の高かった今日、直人さんは頭にタオルを巻いて、Tシャツも肩までまくり上げて気合い十分だ。


「あ、はい。今日は大学の友達とお客として来ました」

「あ、そうなんだ!」


そんな言葉と直人さんの視線は私の後ろに移る。


「あちぃな今日。ゆきみ待てよ、走りやがって、たく。掴まえた!」


ふわりと臣ちゃんが私の腕を掴むと横から抱き寄せる。

わわってバランスを崩して臣ちゃんに寄りかかる。


「臣ちゃん、離れて。隆二臣ちゃんなんとかしてよ!」

「無理じゃない?ゆきみのこと大好きだからね、臣も俺も…」


ニッコリ微笑んでいる隆二なのに、何だか怖い。


「ゆきみちゃんのお友達なら丁重に扱わせていただきます、ご新規6名様ご来店です!」


直人さんが誘導して奥の大きなソファーを案内してくれた。


「ご注文の際はそちらのボタンで何なりとお申し付けくださいね!」

「あ、直人さん!哲也さんいますか?」

「いるよ、なんで?」

「あの友達が見たいって…イケメン好きなんです、ダメですかね?」


私の問いかけにほんの少し笑うと「喜んで出てくるっしょ、後で言っとく!じゃあ楽しんで!」ポンッて直人さんの手が私の頭を優しく撫でた。

朝海ちゃんがめちゃくちゃ期待の目で見ているけど、哲也さんに興味持たなかったら?どーする?

なんて私の不安は一瞬で吹き飛ぶことになる。


「こんばんは、ご来店ありがとうございます。当店自慢の珈琲ロックです。僕の可愛いお姫様はキミかな?」


コトンと頼んでもいないお酒をわざわざ持ってきた哲也さんを見て顔が固まる朝海ちゃん。

見る見る目が輝いていって…


「超絶タイプです!」


ブッてリアルにタカノリがお通しのキュウリを吹き出した。


「汚いっ!岩ちゃん頼むわーもう」


健ちゃんがテーブルを拭いてくれて、なんならおしぼりでタカノリの口元も綺麗に拭いてあげている。


「あの、彼女いますか!?」


身を乗り出して哲也さんを見つめる朝海ちゃんに、哲也さんは余裕に微笑んで「さぁ、どーだろ」なんて答えた。

うわー策士!

哲也さんってちょっと謎っぽい所あるなぁーっめ思ってたけど、そう来るんだ。


「哲也さん、言っておきますが朝海ちゃん落とせなかった男いないですよ?」


遠慮がちに私がそう言うと、哲也さんはニッコリ微笑んで言ったんだ。


「直人もモテるから、頑張ってねゆきみちゃん!」

「えっ!?て、哲也さん…」


直人さんの名前を出されてカァーって赤くなるのが分かった。

まるで私の気持ちを分かっているような哲也さんの発言に視線が泳ぐ。

思わずフロア内の直人さんを探してドキンとした。

他のテーブルで注文を取っている真面目な直人さんを斜め後ろから見つめる私。


「まぁ、あんな風に守られたら誰だって惚れちゃうよね?」

「あの哲也さんそれはその、」


違うって言えばいいのに言えなくて。

だって私の心、身体全部で直人さんが好きだと叫んでいるから。


「間違ってないでしょ?女の子は素直な方がだんぜん可愛いよ。ね?」


ニコって朝海ちゃんを見て「またおいで」小さくウインクすると、スマートに厨房へと戻って行った。

なんだろうか、このサラッと感。

目からハートが飛び出ている朝海ちゃんと正反対にキュウリを手でパクついてるタカノリに苦笑い。

だけど、この日の宴はまだこれからが本番だったんだ。

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