恋に変わる瞬間(2 / 30)

「本当に大丈夫です。家すぐそこなんで」

「ダメダメ、今日はゆきみちゃんのこと一人にしたくないの!ほら行くぞ!」


徒歩で10分もかからないけど、ラストの時はやっぱり夜道を全力疾走して帰ることも多い。

だから有難いけど…


「あれ?大人しいね?あー気にしちゃってる?別にいいって、あんなの。つーか女の子に対してあんな言い草ほんと腹たったわ。レジでクレジットがなかなか通らなくて遅くなっちゃってごめんね。…バイト、辞めないよね?」

「…はい。辞めたら生活して行けないので」

「あ、一人暮らしだっけ?」

「はい。まだ色々慣れなくて…」

「俺も一人暮らし!なんでも聞いて?」

「はい。頼もしいです、直人さん。助けてくれて嬉しかったです」

「ま、可愛い子が困ってたら助けるのが俺って人間だから!」


クスッて笑う直人さんにドキンとする。

…私絶対おかしい。

だって直人さんの笑顔がいつも以上にキラキラ見える。

こうやって直人さんに送ってもらうのも初めてだからきっと緊張してるんだよね。

そう、だよね?

いつもの元気のでない私をあやすようにポンポンって頭を撫でる直人さんにやっぱり必要以上に胸が高鳴る。

でも違う。

あんなことで動揺したりしないって自分に言い聞かせる。

家に着くまでずっと直人さんはペラペラとバイトの人のことを面白ろおかしく話し続けてくれた。

それが心地よくて自然と笑顔も零れる。


「やっといつものゆきみちゃんだな!よし!じゃあこれあげる」

「え?」

「手出して」

「手?」


手首を捕まれてドキッとした瞬間、手の平の上に苺の飴玉がコロッと乗っかる。


「甘くて美味いから、それ食って元気だしてな!」


直人さんの笑顔が私に降り注いだら目の前は私の住むアパート。

うそ、ついちゃった!

手の平の苺飴を握ってアパートの前で止まる。


「ありがとうございます。アパートつきました」

「お、ここね、ゆきみちゃん家。覚えとくよ。終電逃したら今度泊めて!?」

「えっ!?」

「ばーか、冗談だよ。んじゃまたね!」


笑顔で手を振る直人さんに心臓がギュッと鷲掴みにされた気分だ。

咄嗟に直人さんの手を掴んだ。

思いっきり目を見開いた後、照れ臭そうに笑う直人さん。


「え、ゆきみちゃん?どうしたの?」

「…分かんない。でもまだ離れたくない…」


口に出してから吃驚した。

自分でも思ってもないことだったから。

目の前の直人さんがまた少し照れた。


「いやあの…嬉しいけど俺も一応男だから…」


そう言いながらもキュッと指を絡める直人さん。

真っ直ぐに見つめて一歩私に近寄る直人さんに、強烈に緊張が走る。

カアーって頭に血が登る。

笑顔が真顔に変わってまた一歩近づく直人さんに、心臓が壊れそうなくらいドキドキしていて…


「直人さん待って…」


渾身の力を込めてそう言うと、直人さんがパッと私から離れた。


「ごめん俺、ぶっ飛んでた。あ、いや今のは忘れて?ごめんね、怖い思いしたばっかなのに。あーと、帰れなくなりそうだから今日は帰るね。ゆっくり休んで!おやすみ」


ポンッと肩に手を乗せた直人さんはすぐに離れてくるりと向きを変えてがに股で歩いて行った。

やばいやばいやばいやばい、これは本気でやばい。

直人さんも男なんだって、この時初めて意識した。

どうにも止まらない胸の鼓動をもう誤魔化せないと思った。


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