プロポーズ1
本当に秘書課に移動になった私に、廊下で擦れ違ったアキラが声をかけてきた。


「俺のせい?」


そう言う口調は優しくて、ほんの少し動揺が見える。

普段あまり人に動揺を見せないアキラにしては珍しくて…

でも、移動がアキラのせいだと思われたくない私は、プライドが高いのかな?

アキラのせいってわけじゃないけれど、アキラのせいでなくもない。


「まさか、違うわよ」


そんな大人の回答に、アキラは納得してないって顔。


「なぁ、ユヅキ…」

「なに?」

「この間の話だけど…」


ドキっとする。

今度こそ本当に「別れよう」って言われてしまうんだろうか?

こんな彼氏だけど、私にとっては大好きで大切で、本当にこの人を結婚するんだろうなって思った人で…


「アキラ私…」

「やっぱ聞かなかったことにしてくれない?」

「へっ?」


思わぬ言葉に、マヌケな声が出てしまう。

だってそんなの予想外。

「距離をおきたい」も十分予想外だったけれど、今のはもっと予想していなかった言葉で…

だから「え、どうして?」そんな言葉を放った。

私には理由を聞く権利も義務もある。

アキラはスーツのポケットから煙草を取り出してそれをくわえると、おもむろに火をつけた。


「俺やっぱお前と離れることできねぇんだ、よく分かったよ」


…勝手な男。

でも…


「そっか」


内心喜んでしまっているのは事実で、胸の奥がキュンってするのも事実。
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