本当に秘書課に移動になった私に、廊下で擦れ違ったアキラが声をかけてきた。
「俺のせい?」
そう言う口調は優しくて、ほんの少し動揺が見える。
普段あまり人に動揺を見せないアキラにしては珍しくて…
でも、移動がアキラのせいだと思われたくない私は、プライドが高いのかな?
アキラのせいってわけじゃないけれど、アキラのせいでなくもない。
「まさか、違うわよ」
そんな大人の回答に、アキラは納得してないって顔。
「なぁ、ユヅキ…」
「なに?」
「この間の話だけど…」
ドキっとする。
今度こそ本当に「別れよう」って言われてしまうんだろうか?
こんな彼氏だけど、私にとっては大好きで大切で、本当にこの人を結婚するんだろうなって思った人で…
「アキラ私…」
「やっぱ聞かなかったことにしてくれない?」
「へっ?」
思わぬ言葉に、マヌケな声が出てしまう。
だってそんなの予想外。
「距離をおきたい」も十分予想外だったけれど、今のはもっと予想していなかった言葉で…
だから「え、どうして?」そんな言葉を放った。
私には理由を聞く権利も義務もある。
アキラはスーツのポケットから煙草を取り出してそれをくわえると、おもむろに火をつけた。
「俺やっぱお前と離れることできねぇんだ、よく分かったよ」
…勝手な男。
でも…
「そっか」
内心喜んでしまっているのは事実で、胸の奥がキュンってするのも事実。
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