悲しい本音1
【side 美月】
例えそれを彼が恋と呼ばなくても、恋に見えてしまったあたしはどうしたらよかったんだろうか?
「きみくんは、ゆきみさんのこと好きなんじゃないかな?って、ずっと思ってました…」
あたしの言葉に目を大きく見開いたゆきみさん。
とんでもない!って顔で。
「えっ、それはないよ、美月…」
「分かってます、それだけが理由じゃないし。でもそーいう噂を耳にしたことがあって。火のないところに煙はたたないじゃないですか。きみくんも散々違う!って言ってくれたんです。だけど信じきれなくて。逃げたんです、あたしが。ゆきみさんが相手ならそれでいいって思う気持ちもあって…。恋じゃないって言われても、勝手に恋なんだって思い込んじゃって、馬鹿なんですあたし。東京に異動になった事で余計に邪魔者がいなくなったって、思われるかもしれないって、そんなこと考えるのも嫌で。大好きなゆきみさんがあたしを裏切るわけないって信じてたし、でもそれがもしあたしのせいでだったら嫌だし…」
「待って、美月待って…」
あたしの言葉を止めたゆきみさんの手は軽く震えていて。
「言えなかったというか、言わなかったんです、あたしが。ゆきみさんに嫌われたくなかったし、」
「嫌いになんてなるわけないよ、美月…」
「うん。分かってる、分かってます…。だけどあたしが大好きなゆきみさんだからこそ、きみくんも好きになるのは当然だって…」
こんな気持ち、ゆきみさんに知られたくなかったの。
それ以上にきみくんに正直でいてほしいと思っている。
この期に及んであたしは今でももしかしたらきみくんがゆきみさんを想っているんじゃないかと思えて仕方がないんだ。
「登坂は信じられるの?」
てっちゃんがラテアートで可愛い猫を描いてくれる。
その指が細くて綺麗でちょっとだけドキドキする。
泣きそうな顔で黙りこくってしまったゆきみさんの変わりにてっちゃんがそんな質問をしてきた。
「臣くんは…自暴自棄なあたしを知ってるから。最低なあたしを知った上で傍にいたい…って言ってくれた。人間なんてそんなもんって。生きてるだけでどす黒い感情もうまれて、みんなそーいうの抱えながら生きてるんだって…すごく心が軽くなったんです。臣くんといると、何の無理も我慢もしなくて…きみくんは、追いつきたくて必死でした。本当の自分、どこかに失くして来ちゃったんですあたし…」
「ばか、美月!ほんっとバカ!」
ふわりとゆきみさんの温もりに包まれた。
対面でラテを淹れてるてっちゃんは優しく微笑んでいて。
そのてっちゃんが涙でボヤけて見えた。
「嫌な思いさせてごめんね。でもこれだけは絶対…きみくんが私をどう思ってるかはぶっちゃけ知らないけど、私は誓ってないから!!美月の方が100倍好きだからっ!」
ずっと聞いてもらいたかったんだ、ゆきみさんに。
本当の本当は。
違うよって否定してもらいたかったの、あたし。
でも怖くてできなくて…
でも臣くんのこと、今度こそちゃんと信じられるから、もう迷わない。
「彼氏が心配そうな顔でこっち見てるよ、美月」
てっちゃんの声に、フワっと手が肩に触れて。
誰って言わなくても分かる温もりに、ゆきみさんがそっと離れた。
そのまま臣くんにギュっと抱きつくと、変わらない匂いと温もりに抱きしめられる。
「俺の女泣かせた?」
「違うよ臣くん。これは嬉し泣き…だから怒らないで…」
「了解。哲也さん俺にも珈琲ちょうだい?」
「はいはい。せっかく酒買ってきたけど、そろそろお開きかな…」
臣くん、臣くん、ずっと離れないで。
あたしの傍にずっと居て。