遠距離の難しさ1
センチな夜を越えて、少しだけ強く生きようと心に決めた。
シェアハウスにはいつでも遊びに来ていいよって言われて。
私は直ちゃんの住むマンションから数分の場所にあるアパートに決めた。
なんかあったら直ちゃんが助けてくれるって、保証付きで。
「え?また来れなくなったの?」
東京の仕事が始まって、チーム横山の一員である私は1日の大半をきみくんと過ごすことが一気に増えた。
でも今日はチーム土田のみんなと親睦を深める飲み会で、その最中信ちゃんからの着信に笑顔で電話に出たら、週末やっと東京に来れることになっていた!って約束を事もあろうかまたドタキャンされた。
これで二度目。
電話口で平謝りする信ちゃんに仕方なく「気にしないで」って言ったものの、心のモヤは取れない。
「彼氏またドタキャン?」
飲みの場所はシェアハウスで、料理上手なエリーと登坂くんが沢山用意してくれた。
てゆうか、2人ともプロ並みだなぁ。
ベランダに出て電話を切った私の横、煙草を咥えた章ちゃんがニッコリ微笑む。
「うん。仕事だって」
「仕事ねぇ。ほんまに?俺やったらゆきみより大事な用事なんてないねんけどなぁ」
「章ちゃんは何の見返りを求めてる?」
「アホか、なんも求めてへんわ。純粋にゆきみが可哀想やって思うとるだけや」
ペシっと痛くない鉄拳が落ちた。
微かに香る章ちゃんの香水は甘くて女の子みたい。
でもそれが、可愛らしい章ちゃんの外見とよくあっている。
お洒落な章ちゃんは女みたいにネイルもしてて、たまーにスカートまで履いている。
でもそれが妙に似合って私はそのカッ飛んだファッションすら好きだった。
加えて章ちゃんの中身は外見とは打って変わって男らしい…これ、ギャップがすごい。
関西人な尼崎出身の章ちゃんは、東京の空気によくよく馴染んでいた。
「私ってばすっかり可哀想な女になってるね…」
「寂しい?」
「…寂しくないって言ったらそりゃ嘘になるけど…そんな信ちゃんを選んだのは私だもの。仕方ない」
「せやな、あ―――見て!今流れ星通った!早う願い事3回言うて!」
いきなり章ちゃんにそう言われたけど、急すぎて何も浮ばなくて。
「ゆきみの願いが叶いますように…それが俺の願い…」
そう言ってクシャっと髪を撫でた章ちゃんの温もりにドクンと胸が脈打った。
出会ってからずーっと優しい章ちゃん。
この優しさは少々癖になる。
ほんのり危険な香りがすることに、とっくに気づいていたのに。
こんな東京の空に流れ星なんて滅多に現れない。
ねぇ、章ちゃん…
その優しさって、みんなに与えているの?
優男章ちゃんの優しさを独り占めしたくなっている自分に、そっと蓋を占めた。
私には信ちゃんがいる。
信ちゃんを裏切る事はできない。
まるでそう自分に言い聞かせるかのように。