戸惑いの理由1


翌朝気合を入れて朝ご飯を準備した。

まだ誰も起きてこなくて。

昨日みんな沢山飲んだから?起きれないかなって思って、とりあえず時間がきっちりしているであろう健二郎さんの部屋の前に立った。

入室禁止って言われたけど、いいかな?

怒られるかな?

とりあえずコンコンってノックするも、中は物音一つしない。

んーやっぱ寝入っちゃってるかなぁ。

ふぅーって息を吸うと私はドアをそーっと開けた。



「失礼しまぁーす…。健二郎さん、朝ですよ?起きてください!」

「うーん」

「健二郎さん!朝ですよ?」

「うーん、今何時?」



しわがれた寝起きの声で聞かれて。



「今7時半です。お仕事何時からですか?」

「アホか、9時からや!8時半まで寝かせろや」

「えー寂しい。ひとり飯なんて嫌です私ぃ」



健二郎さんの腕を掴んでユサユサするとパチっと目を開けた。

私を見て眉間にシワを寄せる。



「おはようございます、健二郎さん」



ガバッて起き上がった健二郎さんはTシャツに短パンで。



「おま、何勝手に入ってんねんっ!?」

「だって起きないから。寝過ごしちゃダメだと思って。お時間聞いてなかったのでごめんなさい。明日からは8時半に起こしますね!もう目覚めましたよね?一緒にご飯食べてください」

「……たく。ほんまにあんた隆二並に自由なんちゃう?」



呆れたような顔だけど怒ってないのは分かる。

文句を言いながらもちゃんと起きてくれる健二郎さんは、やっぱり本当は優しい人なんだって思う。

ただ、不器用なだけだって。



「ゆきみです、ゆきみ!ね?ゆきみって呼んでくださいよ?」



私の言葉に、まだかけていない眼鏡をクイッとあげる仕草をしたけど、そこに眼鏡がなかったから、ポッと赤くなって目を逸らされた。



「気が向いたらな」



ポスって私の頭に手をついて立ち上がった健二郎さんはそのままシャワーを浴びに行った。

健二郎さんの部屋は想像以上に綺麗で。

確かにこれなら家政婦の掃除はいらなそう。




「健二郎さん、タオル置いておきますねー」

「アホお前勝手に入ってくんな!」

「はーい!もう出ていきますよ!」

「たく…」



シルエット越しの健二郎さんに微笑んで私はキッチンに戻った。

熱い珈琲をコポコポ淹れながらリビングの窓を開けるともわんとした空気が入り込んだ。

昨日ここで直人さんにフラれたんだっけ、私…。

きっと直人さん自身も今の状況に苦しんでるんだって。

抜け出したいけど抜け出し方が分からなくて…

私に頼ってくれればいいのにって思う。



「気合い!元気だけが取り柄でしょ、ゆきみ!」



パチンと頬を手で叩くと、今シャワーを浴びに行ったはずの健二郎さんがもうそこにいた。



「ほんま、おかしな奴や」



呆れ口調なのに優しくて、「ご飯食べましょ!」椅子に誘導した。






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