▼ 狂気な強さ1



その夜はベッドに入ってもなかなか寝付けなくて。

目を閉じると浮かぶオミさんに、終始ドキドキしていた。

唇に触れると、まだ熱いオミさんのキスの温もりが残っているようで、何度も指で唇を触ってしまっていて。

いつの間にか眠りについた翌朝、知らぬ間に事件が起きていたことに私は全く気づかないんだ。





「おはよう」



リビングに降りていくと珍しくゆきみさんの姿がなかった。

直人の部屋で半同棲しているゆきみさんも一緒に朝ご飯を食べることが多いのに。




「直ちゃん、一人?」



私がそう聞くと何故かジロっと睨まれて、あげく大きく溜息をつかれた。

え、なに?

感じ悪い。



「ゆきみちょっと体調悪くて」

「妊娠してんじゃない?ゆきみ」



哲也が直人の横で余裕の笑みを浮かべていて。

思わず目を大きく見開く直人は眼球をグルリと回して思い浮かべているのやら?



「いや、それはない!ゴムはちゃんとつけてる…夏バテだろ」



ブッ!!

直ちゃん、朝ご飯中で家族全員いる時によく堂々とゴムつけてる!って、親の前で!

なんて思うもののうちの両親は少々変わっていて、パパとママは今でもラブラブだった。



「あらママ、ゆきみちゃんならいつでもお嫁さんにきてくれていいって思ってるのよ。早く赤ちゃん作っちゃいなさいよ、直人!」

「いや俺まだ16だけど……18になんねぇと結婚できねぇし」

「あら、そうだったわね。2年も先、長いわねぇ。哲也もそろそろ彼女連れてきてよ?」



ママの問いかけに「はいはい」ってあしらう哲也は、私の見た感じフリーだ。

族の総長なんてやっちゃってるから、近づく女は沢山いるみたいだし、顔だってそこそこかっこいいんだから青春を謳歌すればいいのにって思う。



「樹里亜ちゃんは?」

「へ?」

「樹里亜ちゃんももう好きな人ぐらいいてもおかしくないわよね?」



ママは認めてくれるかな?オミさんのこと。




「うん」



珍しく素直に答えた私に、哲也と直人の視線が飛んできた。

ついでにパパも。



「今度ね、私は!先にてっちゃんが連れてこないと連れてこれないよ!」

「まぁそうよねぇ。哲也早く連れてらっしゃい」

「ああ」



めちゃくちゃ睨まれてる気がする。

怖いから、ご飯を食べ終えた私は早々に家を出た。




「おはようさん!」



一体何時からここで待機していたのか、必ず毎日健ちゃんはうちの前の駐車場にバイクを止めて待っててくれる。



「おはおはよう!健ちゃん急いで!何か兄貴達顔が怖い!」



突進してく私を軽々と抱き上げて後部座席に乗せてくれる健ちゃんにギュッと抱きつく。



「怖いやろな、そりゃ」

「えっ?何かあったの?」

「大ありや」



そう言うとエンジンをかける健ちゃん。

もー族のやっかみに私を巻き込むな!って毎回言ってるのに、本当迷惑。

まさかそこに自分が絡んでいるなんて思いもしない私は、完全に兄貴達に腹を立てていたんだ。

そんなことは学校についてしばらくしたらすぐに消え去るけれど――――――


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