女、覚えろよ。


中3夏、一つ年上の兄貴が俺達の所属する族の頭に抜擢された。

俺らの周りが急激にバタバタし始めたのはこの頃で。

走り屋っていう一つの遊びに没頭していた俺はその一言を兄貴に言われるまで全く興味すら浮かばなかったんだ。





「直人、お前そろそろ女覚えろよ」

「……は?オンナ?え?オンナ?」

「ああ。守るもんがあった方が男は強くなれるんだと、」




何故か面倒くさそうにそう言う兄貴は、そういやたまに家に帰ってこねぇ時も増えて。

妹が「お兄ちゃん彼女かな?」なんて言ってんのを思い出した。




「守るもんって、オンナ?」

「いねぇの、お前?」

「いねぇわ、んなもん」

「覚えろよ、オンナ……今夜クラブ連れてってやるから」




全く乗り気はなかったものの兄貴に楯突くこともできず、俺はその夜クラブへと連れていかれた。




「好きな女連れて帰っていいって」



肩をポンッと叩かれて耳元でそう叫ばれた。

大音量のかかってるここクラブは、ミラーボールが回っててDJがパフォーマンスしてて、単に踊りに来てる奴らもたくさんいて、俺達不良と呼ばれる人種が数多く集まっていた。

好きなオンナって言われても、どれも同じ顔に見えるし、そそられる奴なんていねぇし。

無理やり抱かないといけないわけ?

なんだろうか、別にセックスに興味がないわけじゃない。

けどそれ以上にバイクのが楽しいせいか、オンナに対する欲が正直なかった。

あーもう誰でもいいや。

適当にカウンターにいたオンナの腕を掴む。

ビクッて肩を震わせて振り返ったオンナ。

俺を見て「なに?」怪訝に聞いた。




「2人で抜け出さねぇ?」

「……いいけど」




そのままオンナの手を引いてクラブから抜け出した。

途中で兄貴が知らねぇ女と密着しながら俺に手を振っていた。

兄貴はあの女とヤルのか?

俺もこのオンナと……

クラブの照明じゃよく分かんなかったけど、普通に可愛いじゃん、コイツ。

適当に選んだわりに上出来じゃねぇ、俺?




「どこ行くの?」

「え?ああ…えっと、どこ行きたい?」

「決まってるから抜け出したんじゃないの?」

「全然。俺ナオト。テツヤの弟」




そう言うと目を大きく見開いた。

その後カァーって赤くなっで目を逸らされた。




「聞いてる、哲也くんから。あなたが弟だったんだ」

「兄貴の友達?」

「うん。同級生。わたし、ゆきみ」

「そーなんだ。ゆきみね、ゆきみ…可愛いじゃんお前!」

「…ありが、と」




照れ臭そうに微笑むゆきみを単純に可愛いと思ったんだ。

だからってすぐに抱いていい?なんて言う気もしなくて。




「あえっと、その、す、するんだよね?」




あ、話通ってんのか。

え、つーかあのクラブにいたオンナ全員俺の相手すること分かってていたわけ?




「いや、ごめん。なんて言うかあんまり乗り気じゃねぇんだ。つーかお前らそれ分かっててクラブいたの?」




俺の言葉にゆきみは安心したような顔を見せたように思えたわけで。




「哲也くんから一斉メールが来てて、直人に声かけられたら最後まで面倒見て…的なのが」

「ふうん。んじゃそーいうつもりでゆきみもいたんだ?」

「私は声掛けられるなんて思ってなかったから。なんとなく帰りたくなくて…」

「なんで?家に?」

「……うん」



ポンッ。

ゆきみの頭に手を乗せるとそのまま腕を引いた。




「行く場所決めた。ついてこいよ」

「えっ?」

「いーから!」



なんでか笑ったんだ俺。



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