ピンク色1
秘密を一つ共有したら
気づいてしまった。
彼が、甘えん坊だってことに。
―――――――――――…
トントン…トントン…
まな板で野菜を切っている私の後ろ、肩に顎を乗せて身体を密着させているのはタカヒロくん。
「千切り上手いなぁ」
褒めてくれるのは嬉しいけど…
『タカヒロくん、危ないよ』
「ええっ?」
『………』
さっきから離れてくれないんだ。
タカヒロくんの過去を知った私は、この数時間でよりいっそうタカヒロくんに近づけた気がして嬉しかった。
本来ならふれて欲しくないようなことでも、私にちゃんと打ち明けてくれて。
だからつい嬉しくて…
自分から誘うような真似をしてしまったわけで。
でも空腹には勝てず、キスの最中にお腹の音が鳴り響いてしまったんだ。
そんな訳で、甘い時間はいったん中断してタカヒロくんが食べたいって言った生姜焼きを作っている私。
キャベツの千切りも、ゆっくりになっちゃうのは、後ろの温もりに誘惑が負けそうになっているからなのかもしれない。
『タカヒロくん…』
「うん?」
包丁を置いた私はクルッとタカヒロくんの方に振り返った。
――――チュッ…
不意打ちのキスに怒る気が失せて、どうにも身体の力が抜けてしまいそうになる。
タカヒロくんに触れられると、もっと触れて欲しくなってしまう。
私ってこんなに欲張りだったんだなって、自分に対して苦笑いしちゃいたくなるような気分になった。
何も言い返せない私に、可愛い瞳を覗かせながらも、私の腰に腕を巻き付けて、
再び甘い時間――――
頭の中では制御しているはずなのに、実際の私は制御どころかタカヒロくんの腕をギュッて握るばかり。
「ユヅキ…」
…もー!
そう思いながらも、幸せを感じてしまう私って単純なんだろうな。
『タカヒロくん、先にご飯…』
「分かってる!…のに、離せないよ〜」
ギュウ〜…て、力の限り抱きしめてくれるタカヒロくん。
甘いタカヒロくんの香りを強烈に感じて、目眩すら覚える。
まだまだ時間は沢山あるというのに、それなのにこんなにも、離れたくないんだ。
こんな気持ちになるのも
こんな気持ちを持つのも…
――――初めてで。
どう対応すればいいのか正直分からない。
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