■ 親友の秘密1
【side 奈々】
時間は分からない。
特に決まっていない…
それでもあの日から、あたしを助けてくれたあの日から、本当に毎日タカヒロはあたしの家に来ていた。
それは、計ったように親父が帰宅する少し前で…大きな男物のタカヒロの靴を見つけた親父は無言で自分の部屋に行き、朝になると又シャワーを浴びて仕事に行く。
タカヒロがいるから、あたしとお母さんに手を上げる事もなかった。
最初はすごく抵抗があったけど、今はタカヒロがあたしの部屋にいるって事がすごい安心で、タカヒロと一緒の夜は怖くなくなっていた。
あたしの部屋にタカヒロ用の灰皿が一つ置かれたのは翌日の事で、お母さんが買ってきてくれた物だった。
お礼代わりに朝ご飯を出すお母さんの手料理をタカヒロはいつも残さず全部食べてからあたしの家を出て行く。
「奈々、もう安心だから」
あたしをゆっくりと抱きしめたタカヒロが、最初の夜にそう言った。
ただタカヒロに抱きしめられてるだけなのに、あたしの震えは徐々に止まって、呼吸も元通りになった。
『どうして?』
下から見つめ上げるあたしに向ける視線は優しくて、青倉庫で無視された事なんか完璧忘れてしまいそうなほどで。
彼女がいることさえも、忘れてしまいそうで…
「言っただろ、ほっとけねぇって」
うん、言った。言ったけど…それが理由?
無言でタカヒロを見つめるあたしに、フッとタカヒロが笑った。
「やっぱお前頑固だな」
そう続けてタカヒロはあたしを離した。
その顔はやっぱりちょっと笑っていて。
「その痣…」
そう言ってあたしが隠した腕の痣に視線を向けた。
それは親父に殴られて出来た青紫色の斑点で。
あたしの身体には、この斑点が至る所にあった。
誰にも見られないように、いつも隠していたつもりだったけど、見てたんだ。
「前にも見た事あんだ、お前じゃねぇ奴。…別にそいつとお前を重ねてる訳じゃねぇけど、俺にとっちゃ見過ごせねぇっていうか…」
カチッと煙草をつけるとあたしの部屋に白い煙りが漂った。