■ 好きすぎて…1
週末の走りは雨が降り出しそうな曇り空だった。
予告通りわたしを後ろに乗せようと特攻服を着た哲也が近づいて来て、でもわたしは素直に哲也を見る事が出来ない。
「怖いか?」
肩につくわたしの髪をクルクルさせながら、反対の手で煙草を吸っている。
ためらいがちに縦に一回首を振った。
予想外のわたしの返事に哲也は困惑の表情を見せた。
わたしが哲也を拒否する事なんて今まで一度もなかったから。
当然のようにわたしが『怖くない』って言うんだって哲也も思っていたはず。
煙草を持っている哲也の指がピクっとして、哲也の眉毛は微妙に下がっている。
でも、今のわたしはそれを言うのが精一杯で。
『直人の後ろ…いい』
直人の後ろ『が』いい…って言葉と、
直人の後ろ『で』いい…って言葉じゃ意味が全然違くて、わたしはどっちの意味も哲也には通じない気がして、その繋ぎの言葉をわざと抜かして答えた。
わたしの言葉に一瞬だけ、哲也の瞳が寂しく見えた。
でもそれはほんの一瞬だったからわたしの見間違いかもしれないし、勘違いかもしれない。
でもその瞳が本当に寂しい目であったなら、哲也もわたしを離したくないってそう思ってもいいのだろうか。
わたしには、哲也の気持ちが分からない。
全然分からない…