■ カムフラージュ1
【side ゆきみ】
二人きりの世界
このままずっと、哲也と二人きりでいたい…
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奈々を送ったわたし達は、家の近くまで来ると「ここでいい」って哲也の声が車を止めた。
いつもはギリギリ家の前まで走らせるのに今日はどうしたんだろう?
「行くよ」
そう言って外に出ると送迎車は静かにわたし達の前から走り去った。
街灯の下、わたしを見つめる哲也の瞳はいつになく優しい。
見ると遠慮がちに差し出された哲也の手…
これわたし、握っていいの?
そんな普通の恋人みたいな事、いいの?
中々握る事のできないわたしを振り返って、哲也が一歩わたしに近づいた。
「心配だからじゃねぇよ」
ボソッと照れた声の後に熱い手がわたしを包み込んだ。
一瞬意味の分からなかった哲也の言葉は、さっき青倉庫でわたし達が繰り広げた会話の続きと取れて…
逃げたわたしの言葉に哲也も合わせてくれたんだって、そう思っていたけど…
二人っきりになって否定なんかされたら、その気になっちゃうっていうか…
――――期待しちゃう…。
握られた温もりから、わたしの心臓の爆音が哲也に聞こえちゃうかもしれない…
馬鹿みたいにそんな事を考えているわたしは哲也の顔を見れる訳もなくて、手を繋いでいるというか、親が子を引っ張っているみたいな状態なのかもしれない…
哲也は今どんな気持ちでそう言ったの?
どうしてわたしに構うの?
静かな夜の闇はわたしと哲也の足音だけを響かせていて。
哲也がくれた言葉に何も返せない弱虫な自分が少し嫌になりそう。
「百面相…」
プッて、哲也がわたしの顔を横目で見ながら笑って。
「俺の言葉、聞いてた?」
甘い眼差しが落ちてくる。
こっちを向く度に揺れる左耳のピアスを見つめていたわたしは、大きな哲也の目が近づいてきて吃驚する。
ほんの少し不機嫌そうにわたしの覗き込む哲也の顔。
赤い髪が揺れている。
『え、うん。聞いてたよ』
辛うじて答えたわたしの声は、緊張のせいか自分でも笑える程に震えていて。
哲也は繋いでいる手をギュっと強く握り締めた。