■ 親友の世界1
深夜2時。
ゆきみの家は真夜中だっていうのにおばさんが笑顔で出迎えてくれた。
玄関まで送ってくれた哲也くんはおばさんの顔を見るなり深く頭を下げる。
「心配かけてすんません」
見るからに全身怪我だらけなのに、それでもニッコリ笑って『てっちゃんの事信用してるから』そう言ったゆきみのおばさん。
『哲也、大丈夫?』
離れたくなさそうなゆきみは、最後まで哲也くんを心配していて、ゆきみの哲也くんへの想いの強さを感じずにはいられない。
きっとあたしがいなかったら、哲也くんの所に付きっ切りだったのかもしれない。
あたしがここにいるせいで、ゆきみは哲也くんの側にいれないってことを、この期に及んで申し訳なく思うんだ。
それでもあたしが今、ゆきみの家にいるって現実を嬉しく思ってしまうなんて。
雨に沢山濡れたあたし達の為にお風呂を沸かしておいてくれたおばさん。
ゆきみの部屋に用意されたあたし用の布団はフワフワで暖かった。
お風呂上がりにパイナップルの缶詰とポカリが部屋に置かれていて…
『奈々?どうかした?』
あたしの後にお風呂に入ったゆきみも戻ってきた。
ボーッとしてるあたしに向かってそう聞かれて。
『優しいね、ゆきみママ』
口から出た言葉は正直な想いで、でも同時に感じるのは羨ましさで…
うちとは掛け離れている。
それを口にする事すら出来ないけど、心のどこかで、ゆきみに対する羨ましさが芽生えてしまいそう。
温かい家族がいて、哲也くんが側にいて。
あたしにはない、ゆきみの世界。
『ただの過保護だよ。わたし妹だしお姉ちゃんもう家出てるから仕方ないっていうか…』
そう言ってゆきみはベッドの少し上にある窓のカーテンを開けた。
隣の家との間は1メートルもなくて、ゆきみの部屋の窓とちょうど同じ高さに同じような窓があった。
『近いね』
こっちから手を伸ばしてガラガラと窓を開けると、そこにいる哲也くんが煙草を吸っていて、左手には缶ビールがしっかりと握られていた。
「うわ、¨若者のスベテ¨のDVD返すの忘れてた…ゆきみど〜しよう…」
『哲也いつも忘れるね。明日返してきてあげる、ハイ貸して』
窓越しに手を伸ばすと、申し訳なさげに哲也くんがTSUTAYAの袋をゆきみに手渡した。