■ 隠し事1
【side 奈々】
眠る事が嫌い。
怖い。
あの闇に包まれた時間が嫌いで怖くて
――――"あたし"は眠れない。
――――――――――…
夜中にガチャガチャって玄関を開ける音に恐怖を感じない日は一日足りともなくて、その度にあたしはベッドに潜って息も潜める。
ヒタヒタ近づく足音に耳を押さえたくなる程体は震えて、その足音があたしの部屋を通り過ぎると涙が出る程ホッとする。
でもそれはすぐに違う痛みに変わってあたしにも襲い掛かってくる。
止まらないその声と音に本気で耳を押さえてただその行為が収まるのを、闇が明けるのを待つ。
こんなあたしに幸せなんて絶対にこない。
抜け出したいこの現実から
怖くて怖くてたまらない…
「奈々っ」
ハッと目を開けると見た事のない天井の模様が映っていた。
大きく揺らすあたしの肩には手が添えてあって、金髪のサラサラヘアーの下の茶色い目があたしをジッと見据えている。
「大丈夫?」
ゆっくりと起き上がったあたしに優しくそう声をかけた。
大きなソファーに寝かされていたあたしから手を離すと、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出してあたしにくれるその人は、有名な田崎タカヒロ。
中学の頃から暴走族をやっていて、みんなの憧れの人…って噂を耳にした事がある。
優しそうな外見のせいか、この人の目はちっとも怖さを感じさせない。
『あの、ゆきみは?』
蚊の鳴くような小さな声であたしは聞いた。
この空間に二人きりでいるのが何だか気まずくって。
一刻も早くゆきみに会いたい。
「今ケンチの手当の様子見に行ってる」
そう言われて思い出した。
あたしが今ここにいる理由を。
ふと視線を泳がすあたしに、横向きに置いてあるソファーの上、手当を終えただろうゆきみの哲也くんが目を閉じて横になっているのが見えた。
あ、哲也くんもいたんだ。
規則正しい息遣いを見るに、眠っているに違いない。