恋心1




無事に進級した俺達は、高3になって、受験やら何ならで前みたいにつるむことが少しづつ少なくなってきていた。


ほとんどの奴は夏までに進路が決まっていて。


大学に進むもんかと思っていた哲也とゆきみは揃って就職を選んでいた。


俺はそんな2人を追うように就職にしようとしたものの、結局やりたいことなんて特になくて。


そんな気持ちで就職してもうまくいかないって思い、気持ちを切り替えて大学に進む道を選んだ。



人生の大きな選択に遭遇した時、その選択肢が本当にあっているのか不安になるわけで。


もしもこの時俺が同じように就職を選んでいたのなら、また違う未来がそこにあったのかもしれない。


だけどどんな道を選んだところで、最終的に行き着く場所は変わらないでいたい。


俺にとってのゆきみって存在がどれほどなのか、身を持って知る。





哲也の家は小さな建築業を営んでいて、哲也の兄貴達もそこに就職していた。


まるで将来を約束されたかのよう、土田工務店に就職の決まった哲也。



―――そして、彼女のゆきみ。


勿論ゆきみは事務として。


元々は哲也の母ちゃんがやっていたその仕事の全般を、ゆきみが引き継ぐことになったらしい。


大手企業みたいな事前説明会的なもんも一切なく、楽に決まった二人は残り少ない青春を謳歌している…。





「直ちゃん放課後カラオケ行くけど、一緒に行かない?」




異動教室の途中でちょうど前から歩いてきたゆきみが俺の腕を捕まえて誘われた。



「カラオケ?」

「うん、たまには息抜きしようよ、ずっと勉強してない?」

「まぁそうだけど…。たまには行くか!俺も羽根伸ばしたいし!」

「よし決まり!んじゃ哲也に言っておくね〜」

「おう!」




幼馴染の距離をしっかりと保っている俺とゆきみ。


今まで特にゆきみを女として意識したことなんてないから、ゆきみにどんな風に触られた所で俺は無反応だった。


それに比べて哲也は昔っからゆきみに触られると嬉しそうにしていて、そこに友情と恋の違いがあるんだと思う。



ゆきみのことは美月と同じぐらい可愛いと思っているけど、だからって抱きしめたいとかキスしたいとかって対象じゃなかった。



―――なかったはずなんだけど。





- 5 -

prev / next


TOP