伝えたい本気1
「え、なんで…!?」
お泊りセットを持ってうちにやってきたゆきみに俺は思わず後ずさった。
ゆきみと哲也のキスを見たあの日、家に帰った俺は美月の男のこともすっかり忘れて、飯も食わずにそのまま部屋に閉じこもった。
心配する美月をよそに「具合悪い」そう言って。
もうすぐ高校最後の夏休みが始まる。
ちょうど期末試験が終わったその日、クラスの違うゆきみ達はみんなで遊びに行ったようで。
でも図書館で勉強して帰ってきた俺の前にゆきみが座っていた。
「今日美月んとこお泊り!何か相談あるんだって私に〜。男のことかなぁ、美月。最近クラスの子に告られたって言ってたし!だから直ちゃんも今日よろしくね!」
…美月―――!!!
早く言えよ!
ゆきみが俺ん家泊まるとかマジ無理。
いやこんなのわりとしょっちゅうあったけど。
でも今の俺の気持ち…―――ヤバイだろ。
「美月何かクラスの子達と集まってるみたいだから、私先にご飯作っちゃおうかな〜って!直ちゃん何食べたい?」
「…え、おふくろいねぇの?」
「うん!何か実家に顔出すって言ってたよ〜。ゆきみが泊まりに来るなら安心ね!って」
…安心じゃねぇから、そこ!
全く、子供だけにする親がいるかよ。
俺の気も知らずにゆきみは冷蔵庫の中を物色していて。
「冷やしうどんでいい?」
「え、ああ、うん」
「直ちゃん食後のアイス買ってきて?」
「え?アイス?」
「うん、3人で食べよー!」
「…うん。何がいい?」
「「チョコ」」
ゆきみが好きな味なんて分かりきっている。
声が揃ったから二人で顔を見合わせて笑う。
「適当に色々買ってくるわ!」
俺は財布とスマホを持って玄関へと行く。
「あ、直ちゃん待って!花火買ってきて、花火!後でお庭でやろう!ね?」
首を傾げるゆきみは殺人的に可愛くて、イエス以外の言葉なんてとてもじゃないけど、言えそうもない。
哲也いないのに花火していいの?
そんな言葉が俺の脳内を過ったけれど、すぐに忘れた。
ポンってゆきみの頭に手を乗せると「花火な、了解!行ってくる」スッと離すとゆきみが俺に向って手を振ったんだ。
「いってらっしゃーい!」
…やべぇ顔が緩んでる。
俺今誰かに会ったら絶対変態だよ。
エロ目だし、エロ呼吸だし…
「お兄ちゃん!!」
目の前から俺に向ってくる美月に思わず苦笑い。
「美月、ゆきみもう来てんぞ!」
俺の腕にくるまって一緒に歩く美月は、最近少し女っぽくなったようにも思えて。
やっぱこいつ、男できたのか?
たく…。
「話せた?ゆきみさんと!」
「へ?」
「この前からお兄ちゃん様子が変だったから何も話せてないと思って!」
ニコッて笑う美月。
え、もしかして俺のため?
子供だと思ってたけど、案外俺より美月のが大人なのかもしれない。
「ばーか!」
美月の肩に腕を回してポンポンって頭を撫でると、可愛らしい歯を見せて笑うんだ。
「お兄ちゃんさ、ゆきみさんのこと好き?」
「…え?」
「あたしお兄ちゃんの味方だから!」
「え、おい」
「てっちゃんはあたしが慰めてあげるから、頑張りなよ!」
「別にそんなんじゃねぇよ」
「だってあの日お兄ちゃん泣いてたじゃん…」
ギュッと俺の肩に頭を寄せてしんみりする美月。
気づいてたんだ、かっこ悪い…
何も言えない俺の背中に腕を回してポンッと背中を叩く。
慰めてくれてるのかって。
「お兄ちゃん優しいからさ、二人の邪魔しちゃいけないって思ってるだろうけど…。ゆきみさんがてっちゃんと付き合ったのって、ちょっと訳あり?な気がするなぁあたし。だってゆきみさん、お兄ちゃんのこと…」
そこで言葉を止める美月を思わずガン見する俺。
え、ゆきみ俺のこと…―――――なに?
「いけね、これ内緒だった!女同士の約束だからお兄ちゃんでも言えない!ごめんねっ!だけど美月はお兄ちゃんのこと応援してるから。困ったらいつでも相談してね!」
「…妹のくせに、偉そうに。―――けど、サンキュー。ちょっと元気でた!」
ちょっとゆきみと似たその笑顔に俺は微笑んで、美月と二人アイスを買いに行った。