告白1
俺のメイクの順番が回ってきて、目の前には奈々が立っている。
無言で俺にメイクをのせていく奈々。
パフォーマーは別室で打ち合わせしていて、隆二は今撮影中。
この楽屋には俺と奈々の二人っきりしかいない。
目を閉じて奈々の動きを感じながらも頭の中で整理していた…――ジュリのことを。
目の前にいる奈々とは外見も中身も違う。
俺の中で過去最強だと思っていたジュリは、今はもう俺のことも忘れて新しい道を進んでいる。
俺も前に進まないとダメだ。
パチっと目を開けると当たり前に奈々と目が合う。
「あのさ…」
「…え?」
「色々直人さんやゆきみさんに釘刺されてたんだけど…」
「………」
「やっぱ俺、好きだわ…」
何が起きてる?って奈々の顔に書いてある。
直人さんが言ってたこと、俺も分かったわ。
手を止めた奈々の小さな手をキュっと握る。
「…おみ…」
「うん?やっと呼んだね臣って」
「え?あ…」
「無意識だった?」
「…うん」
「ハハ、それかなり嬉しい奴!前に直人さんに聞いたことあってさ。ほら初めて4人で飯食いに行った時。タクシーの中で聞いたんだ俺、直人さんに。ゆきみさんのどこに惚れたか?」
奈々を飯に誘って浮かれた俺を直人さんが心配してついてきたあの日。
そう遠い昔じゃないのに、何でか懐かしい。
それだけ今の俺の世界が色濃いんじゃねぇかって。
奈々のいるこの世界が、色濃いんじゃねぇかって。
「…うん」
「したら直人さん色々言っててさ。惚気をね、想像できるっしょ?」
俺の問いかけに微かに微笑む奈々。
「こういう世界だからゆきみさんのこと悲しませたりすることもいっぱいあるかもしれないって。すっげぇ悩んでたみたいで、俺ら誰も何も気づかなかったんだけど!でもその時に思ったんだって…ここまで悩ませられてるってことがもう答えだって…。その意味が俺にも今ならすげぇ分かるの…――分かっちゃうの」
俺の言葉に泣きそうな顔の奈々。
これから俺が言う言葉、想像してる?
分かってる?
ほんのり奈々に微笑んでもう一度強く繋がれた手を握った。
「好きだよ、奈々が。ずっと気になって仕方ねぇの。奈々に付き合ってる人がいても、俺のこと避けてても、隆二と仲良くても…――俺が奈々を好きなんだ。どうこうなりたいって訳じゃない。けど俺が奈々を好きだって気持ちを、否定しないでほしい。ごめんね?」
俺を真っ直ぐに見つめる奈々の大きな瞳は真っ赤で潤んでいる。
その大きな瞳から、瞬きした瞬間、涙が零れて奈々の頬を伝う。
どんな意味が隠れているのかさっぱり分かんねぇけど、指で涙を拭うとまた次から次へと涙が零れ落ちちゃって。
「泣くなって…」
「………」
否定も肯定もない。
イエスもノーもない。
でもこの涙を見れば分かる。
分かるっつーか、思う。
少なくとも、俺を嫌いじゃないってこと。
どこかで苦しんでいるんだってこと。
今は何も言葉にできないもどかしさを抱えるしかないのかもしれないけど、俺はもう迷いたくない。
自分が小さい男だって分かってる。
でも好きな女に好きだと言えないような奴ではありたくない。
三代目でもTRIBEでもない、登坂広臣として俺は行沢奈々を好きなんだ。