恋の悩み1
岩ちゃんはもしかしたら、今でもゆきみさんを想っているんじゃないかって…―――密かに思ったわけで。
それでも俺達に明日はすぐに来る。
どんなに弱っていても翌日の仕事ではそれを完全に隠して笑顔を作らないとだめなんだ。
それが俺の選んだ道で、俺も岩ちゃんもこのレールからは絶対にそれない。
「ケホケホ…」
あれ?
「隆二、風邪?大丈夫?」
「臣、ごめ…ちょっと熱っぽくて…」
「隆二さん、奈々さんの風邪がうつったんじゃないっすか?」
冗談っぽく岩ちゃんが水を飲み終えてそんな発言。
遠まわしに俺に言ってたらどうしよう?って思いながらもそれを冗談にできないのは俺じゃなくて、隆二で。
「ばか、ちっげぇよ!」
不自然なくらい動揺した隆二の声と、無駄に赤い顔。
…――は?
なにその大袈裟な否定、余計に怪しいんだけど。
「いや隆二さん俺冗談で言ったつもりっすけど」
苦笑い気味に岩ちゃんがポッキーを咥えているものの、言われた隆二は呼吸を荒げて「だから分かってるって!」…こんな隆二は珍しい。
昨日の今日だから奈々は大事を取って今日は休みだった。
俺も今日はどんな顔して逢えばいいか分からなかったから、ほんの少しだけ寂しくて、でもホッとしている部分もあった。
「そういやサマンサのモデルちゃん達から飯行きませんか?って誘いが来てるけど、臣さん隆二さん、どーします?」
岩ちゃんがスマホ片手にポリポリポッキーをパクついている。
あーそういや俺もLINE聞かれて、隆二と3人でグループ作ったんだっけ?
自分の手元にあるLINEを開くと今程岩ちゃんが言った飯の誘いがきていた。
「風邪治ればいいけど、臣は?」
そう言ったのは隆二だった。
なんとなく隆二は断るかな?って勝手に思っていて。
それはいわゆる奈々を気にしているから。
「俺もいいよ」
乗り気じゃねぇけど。
奈々と飯行くって時はあんなに浮かれた気分だった自分がむしろウケる。
俺そーいうの全部態度に出ちゃってたんじゃねぇの?って。
「じゃあそれで返しときますね」
相変わらず表情一つ変えずにポッキー食ってる岩ちゃんはどうなのよ?
岩ちゃんこそ、本当は行きたくないんじゃねぇの?
自分のパートナーに選ぶくらいだから、それなりにみんな可愛いけど、仕事の相手は俺は恋愛対象に見れない気がした。
勿論芝居では何でもするけど、気持ちも入るけど、監督のカットっていう声はある意味現実に戻る魔法なんだとも思えた。