導いてくれる人1



あっという間に俺は直人さんに連れられてタクシーに。

奈々は勿論ながらゆきみさんと別のタクシーに乗り込んだ。


「お前なぁ…」


直人さんの呆れた声と言葉に俺は生唾をゴクっと飲み込んだ。


「あの直人さん」

「なに?」

「…すいません」


俺が一言そう言うと「許さねぇよ」…怖くて顔が見れねぇし。

直人さんが怒るわけも分かってる。

俺だって自分で訳わからないのが本音で。

奈々は付き合ってる男がいるってのに、隆二と仲良くて…

それが気に入らないって思うこの気持ちは…―――「好きなの?奈々ちゃんのこと…」直人さんの低い声が俺を責める。

そんなつもりじゃないのかもしれないけど、直人さんは普段以上に低い声でそう聞くから勝手に責められてる気分になった。

小首を傾げて窓の外を見てボソっと呟いた。


「分からなくて…」


素直に言うしかねぇって。

直人さんって人も、HIROさんと同じで、怒鳴るなんてもっての外、注意はしても怒ったりはしない。

「俺はこう思うんだけど、お前はどう思う?」って自分達の意見を言えるように考える時間をくれる人だ。

だからこの人についていけてる。

あからさまに頭ごなしに怒られていたら、俺は自分の矛盾をどっかで感じながらも逆切れして今ここにはいないんじゃないかって。

だから直人さんの真面目な言葉には深い重みを感じる。

きっと俺だけじゃなくて、隆二だって他の奴らだって…ましてや直己さんだって同じだと思う。

俺達を全てに置いて引っ張って、行くべき場所へ導いてくれているのは間違いなくこの人だって。

その小さい身体で、沢山のことを考えて、俺達が成長できるようにしっかりと道をつけてくれる。

そこをただノロノロと歩くんじゃなく、自分たちの足でちゃんと前に進める道しるべになってくれている…そんな大事な兄貴で。


「さっきのインスタの子…忘れられない大失恋の子だろ?」

「…はい」

「引きずってる…ってゆきみが言ってた。広臣のこと見てろって…。何度も言いたくないけど…奈々ちゃんはゆきみの親友だから。ゆきみと俺の幸せを誰より願ってくれてるのは奈々ちゃんだって思ってる…。広臣が本気ならそれはちゃんと考えなきゃなんねぇけど…適当な気持ちなら俺は応援できない。奈々ちゃんが傷つくことで、ゆきみだって悲しむ…それは見過ごせない…」


いつだってゆきみさんを大事に思ってる直人さんの言葉は、今の俺には正直重たい。

だけど少し前の…この世界に入る前の俺なら同じようにジュリを想っていただろうって。

その気持ち、いつどこで失くした?

人を愛することの素晴らしさを…その温かさを…


「聞いてもいいですか?」

「ん?」

「ゆきみさんのどこを好きになったか…」


静かなタクシーの中、無線の音に紛れてかかってるラジオからは洋楽が流れていて。


「これってもんっていうか…俺そういうつもりでゆきみを見ていた訳じゃないし…。拓の先輩だったからそんなに警戒心はなかったと思うけど、ゆきみの方が俺達に一線引いてるのは分かってて、それはまぁ確かに新鮮だったけど。でも付き合うとかそういう相手じゃないって俺も正直一線引いてたよ」


あの頃を懐かしむ、思いだしているような直人さん。

確かにゆきみさんは最初から俺達に一線を引いてたな。

それは俺も感じてた。


「けど直人さん結構最初からゆきみさんに対して一歩入ってませんでした?」


そんな風に見えなくもなかったような気がして。


「う〜ん。自分じゃ自覚なかったけど…無駄に安心感があったかも。ゆきみが引くから近付きたくなってたのかな、俺…。まぁでもやっぱ好きだって自覚したのはアレだよ…」


チラっと直人さんの視線が俺に移る。


「直人の口から出た言葉以外は信じない!…拓の家で飲んだ時、ゆきみが言ったあの言葉に初めて、ああ俺こいつのこと好きだわ…って。けどそれ認めた後のが苦しかったかな…。岩ちゃんの写真集撮りの日、こっちでも雪が降ったんだけど、ゆきみ俺に逢いに来て…”逢いたくて”って泣いたんだ。岩ちゃんに色々迫られたみたいで、それでも俺に逢いたいって泣いて…。抱きしめるしか出来なくて…その後無駄に色々考えちゃってね…。マジで幸せにできんのか?って。俺達の仕事って特殊だから寂しい思いさせるんじゃないかとか…マジで真剣に考えちゃって…けど結局俺がゆきみに逢いたいって気持ちには勝てなくて…ゆきみだったらこれから先何があっても信じられるって本気で思えたから…」


初めて聞く、直人さんの気持ち。

悩んでたなんて全く気づかなかった。





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