思い出にできなくて1



…―――え。

俺今何しようとした?

冗談だろ。

自分のとった行動にゴクリと生唾を飲み込む。

ヘアメイクだよ、あの人。

しかも直人さんの彼女の親友…―――絶対ダメでしょ。

そう思う反面で、キスをしようとした自分の無意識さに溜息が零れた。

マジでジュリのせいで俺、おかしい…。


「臣何してんの?」


柵に頭をつけて項垂れている俺を見つけた隆二がポンっと背中を叩いた。


「酔い醒まし」

「酔ったの?大丈夫?」

「平気…」


なんていうか、気持ちの問題。

そんな言葉は呑み込んだ。


「岩ちゃん酔ったフリしてゆきみさんに触りまくってたよ」


あはははって乾いた隆二の笑い声に、ああそっか…って。

俺も酔ってるから人恋しくなったんだって。

そう思えば別におかしくないって。


「隆二サンキュー」


ポンって隆二の肩に手を置いて、俺は一つ息を吐き出すと、そのままみんなのいるリビングへと戻った。

当たり前にいる行沢さんが部屋に入った俺を見てニコっと微笑む。

別に余裕なんだ?

俺にキスされそうになっても別にどうってことないんだ?

彼女の頬笑みはそう言ってるように思えて、ほんの少し心がイラついた。


「ゆきみ寒かったでしょーごめんねっ」

「う〜ん。岩ちゃんがベッタリだったから…」

「待て待て待て!聞きずてならんよ、岩田ここに座れ」

「嫌っすよ〜兄貴〜。いいじゃん兄貴のいない所でシタんで」

「いいわけねぇぞ、岩田!いいからここに座れ!」

「やだ。ゆきみちゃ〜ん助けて――」


猫みたいにゆきみさんに懐く岩ちゃんを見て哀れになんて思わないけど、一歩間違えたらああなるってことを俺は脳内に叩きつけねぇと?…そう思ったなんて。

そうやって直人さん家での家飲みはどんどん盛り上がっていって。

気づけばみんなが雑魚寝状態。

拓の家よりは全然広いし、岩ちゃんは堂々と客間で寝ているわけで。

家主の直人さんは座り心地のいいソファーを占領して寝ている。

俺は何となく寝付けなくて、もう一度ベランダに出たんだ。

星もあんま見えねぇこの空の下、どこかでジュリが幸せな夜を過ごしていると思うと、ほんのり胸が痛い。


「眠れないの?」


声をかけてきたのはゆきみさんだった。





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