同じ香り1



直人さんのあの話を聴いたからだろうか、最近たまに夢に出てくる。

自分で無意識に忘れようとしていた想いが蘇るようだ。

マジで俺が素直になってれば俺達今頃まだ一緒にいた?

そんな疑問は日に日に大きくなっていく。

隣で微笑むジュリをそっと抱き寄せて耳元で「愛してる」を繰り返す。

嬉しそうに微笑むジュリを強く抱きしめて、でもどうしてかジュリはオレの腕の中から出て行ってしまって。

追いかけたいのに金縛りにあったように身体が固まって動けねぇ。

腕を伸ばしたいのに…

大声で叫びたいのに…




「…んっ……さんっ!……登坂さんっ!!」


肩を揺すられてハッと目が覚めた。

あれ?俺…

眼球をグルリと回すと歌番組の楽屋で。

目の前には…「行沢さん…」当たり前だけどジュリじゃない。


「大丈夫ですか!?魘されてました」


心配そうに見下ろす顔は隆二の言う通りで綺麗。

メイクさんなんて勿体ねぇな。

ボーッとそんな風に思っていた。


「大丈夫っす。すいません起こして貰って助かりました…」


起き上がろうとしてふと気付いた。

俺が彼女の手をギュッと握っていることに。


「あ、ごめんっ!いやこれ不可抗力っていうか…」


パッと手を離すと行沢さんは少しだけ眉毛を下げて首を左右に小さく振った。

ふわりと香水じゃないシャンプーの香りが鼻をついてドキッとした。

思わずその髪に触れる。


「え、あの…」


起き上がって彼女の髪に顔を埋める。

忘れるわけない、ジュリの香り。


「ごめん、ちょっとだけ…」


そう言って行沢さんの背中に腕を回した。

ジュリよりも細くて小さい彼女の温もりに縋っても仕方ないのに、そうせずにいられなくて。

ギュッと強く胸に抱きしめる。

もう二度と戻れない場所を目を閉じて思い浮かべる。

今更何をどうしたってジュリは戻ってこない。

その現実を今もまだちゃんと受け入れられていない。

頭では分かってるけど、気持ちがついていけない。

一体いつまで俺はこの呪縛から逃れられないんだよっ…


「ごめん、もう平気。ありがと」


そっと行沢さんから離れてそう告げる。

彼女は何も言わずに自分の仕事に戻る。

聞かれた所できっと俺は何も応えないだろうし。






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