俺にしとけば


「…お見合いですかっ!?」


自分の口から出た言葉を疑った。

だってお見合いってあれでしょ…恋人のいない人同士が誰かの紹介でお付き合いどうですか?っていう。

もちろんその先にある結婚も視野に入れて…――――


「無理無理無理無理ですっ…」


慌てて手を振って上司の元から逃げてきたというものの、心臓はバクバクいってて穏やかじゃない。

結婚適齢期なのかもしれないけど…―――結婚ぐらい好きな人としたい。

そう思っているものの、それをうまく言えたらどんなにいいか。

…ずっと入社以来片想い継続中の私。

言えるわけ、ないよね…。



「ユヅキちゃん結婚すんの!?」


お昼休み、カフェで場所取りをしている私の肩をポンっと叩かれた。

振り返ると、松本先輩と眞木先輩。

馴染みの顔がそこにあって。


「…え?結婚!?」


思わす私の方が大きな声をあげた。


「うん、噂んなってるよ。ユヅキちゃんがお見合い結婚するって!たぶんウッさんの耳にも入ってると思うけど?」


松本先輩がニンマリいけない顔をしながらそう言うもんだから、カアーっと赤くなってしまう。

この人達にはどうにも嘘がつけなくって。


「どうすんの、ウッさん…」

「どうするって…よっくんも本当に知ってるんですか?」


私は、カレーの所に並んでいる同期のよっくんを見て苦笑いをこぼした。


「たぶん。苦虫潰したような顔してたからねぇ」


眞木先輩が蕎麦を持ってきた恋人のえみちゃんを呼びよせて私の隣に座ったんだ。


「ユヅキちゃん結婚するって噂になってるよ!」


えみちゃんにまで言われて…。


「断ったんだよ、私…結婚相手ぐらい自分で決めたい…って」


そう言った瞬間、よっくんがカレーを持って反対側の隣に座った。


「はい、ユヅキの分」


そう言って私用のカレーを置いてくれて。

何も言わずにカレーを食べ始めるよっくん。

今の聞いてたよね…?

それでも何も言ってくれないってことは、やっぱりそういうことだって。

よっくんは人にすごく優しいけど、きっと私には興味がないんだって…


「お見合い、しなよ…」

「…え?」


まさか、よっくん本人の口からそんなことを言われるなんて思いもしなくて。

興味がないんだって、分かってはいたけど、実際そんな言葉を貰うのはキツイものがある。


「そろそろ結婚考えてみるのも、いいんじゃない?」


お茶をゴクっと飲んで真っ直ぐによっくんが私を見てそう言うんだ。

胸がギュっと痛くて苦しくて…


「よっくんには言われたくないわよ…」


そう呟くのが精一杯で、気を抜くと涙がこぼれおちそうで…―――


「ユヅキの為だよ…」


ポンって、どうしてかそんな優しい声で、優しい言葉をくれるんだ。

でも分かってない。

私の為だなんて、それが間違ってる…


「ウッさん、さすがにそれは…」


松本先輩が気を使ってそう言ってくれた。

でもよっくんはどうしてか私から目を逸らしていて。


「相手ちゃんと聞いた?」

「え?」

「お見合いの相手の人、どういう人か…」

「…聞くわけないじゃん」

「俺だよ、俺!!」


そう言って振り返って自分を指差すよっくん。

その顔はすごく真っ赤で。


「え、よっくん!?」

「…俺にしとけば?」


思考回路が止まっちゃいそうで。

見つめる私に「俺がヒロさんに頼んだんだって…だから、俺と結婚前提に付き合って、…欲しい…」最後の方は声が小さくなって…でもちゃんと聞きとれて。

勿論みんな何も知らなかったんだろう、吃驚している。

私は、色んな感情が溢れてやっぱり泣きそうで。


「分かった」


素直になりきれない一言を放ったんだ。

でもそんな私を嬉しそうに微笑み返してくれるよっくん。

やっぱり私、この人の笑顔をずっと見ていたい――――

そう思わずにはいられない。


「はいはい、おめでとう!!もうチューしちゃえよ、二人とも!!」


悪乗りする松本先輩と眞木先輩をえみちゃんが怒っていて、でもそれを見ていた私に、ほんの一瞬だけよっくんのアツい唇が触れたなんて―――――





*END*

Special Thanks Love MEYA