こいつは俺の
「さよーならー」
そんな声が飛び交うここ、渡り廊下を通り抜けて2Fの奥にある化学室へと入って行く。
ガラっとドアを開けたそこにいる白衣姿の登坂先生が吃驚した顔で振り返った。
「ノックぐらいしろよな。つーかお前もさっさと帰れよ?」
銀フレームの眼鏡を指で直して私を真っ直ぐに見つめるその口端は緩い。
「今日は私とデートしてくれる約束!」
「…そうだっけ?あーそっかそっか…了解!ちょっと待ってろ」
ポンって私の頭を撫ぜてニコっと微笑んだ。
えくぼが出るその笑顔がすごく可愛くて、私は登坂先生に夢中だった。
先生が白衣を脱いで眼鏡を外すと、一緒に誰にも見つからないように校舎を出た。
TSUTAYAでDVDを借りて先生の家で一緒に見ることになって、先生と一緒にDVDを見ていた。
「先生これは?」
腕に捕まってディズニーアニメを指差す私に向かって苦笑いを見せる先生。
ペコってオデコを指で弾かれて「それはユヅキが見たいんだろ?」肩越しに言われた。
「えーじゃあ臣くんはどれが見たいの?」
ムウって口を突き出してそう聞く私に、ほんの一瞬目を見開いた先生。
ちょっとだけ困った顔で息を吐き出してポンポンって何故か頭を叩かれた。
そのまま肩を抱かれて洋画の所に誘導される。
外でこうやってあからさまに密着するなんて滅多になくって。
勿論学校では私と先生が付き合っていることなんて内緒で。
だから外でも手なんか繋げなかったりするのに…「先生?」私が小さく聞くと「なんだよ?」少しムッとしたような声が返ってくる。
「何怒ってんの?」
「怒ってねぇよ」
「怒ってるー」
「いいから黙っとけって」
「なんでよ〜」
「…外で臣くんとかユヅキが言うから…」
見ると、ほんのり頬を赤くして目を逸らしている先生。
え、照れてるの?
やだ、可愛い!!
どうしよう、可愛すぎる!!
ニンマリ顔が止まらないって思った瞬間…「広臣?!」聞こえた声にビクっと肩を上げてゆっくり振り返った。
そこにはイカツイ髭のお兄さんが立っていて…
「おお、隆二!久しぶり!」
隣の先生が途端に笑顔になった。
お友達かな?
私が一歩後ろに下がったら、隆二さんの視線が飛んできて…
次の瞬間先生が言ったんだ。
「こいつは俺の!」
たったそれだけ。
一言、俺の!って。
「こんにちは、今市です」
イカツイと思った隆二さんは目を細めて優しく微笑んだ。
「こ、こんにちは」
ペコっと頭を下げると「制服…」ボソっと呟いて。
「まぁ…その辺突っ込むなって」
「なるほど…臣がねぇ…」
「いいから、また連絡する!今度飲みに行こうぜ」
ポンって背中を押して隆二さんと別れた私たち。
二人っきりになって改めて先生を見つめた。
「俺の…なに?」
「え?」
ちょっと含み笑いを浮かべた先生の腕に巻き付くと「俺の彼女って…。言わせやがって」ポスって大好きな手が私の頭を優しく撫ぜたんだ。
*END*
Special Thanks Love AYA