お疲れ様、頑張ってるね

「疲れた…」


この世界にいると自然とその言葉を飲み込む。

自分よりも年上で、自分よりも忙しくしている人なんて数え切れない程いる。

そもそも社長のHIROさんがこの言葉を吐いたことを俺は聞いたことがない。

HIROさんが言ってないのに俺が言える訳もなく。

だけど、家に帰るとどうしても気が抜ける。

緩むというか…。


「眞木さんお帰りなさい。今日もお疲れさま」


ツアーの東京公演を終えて家に帰った俺を待ち構えてくれている恋人のえみ。

その顔とこの声に俺はホットしてほんの少し甘えが出る。

いつも笑顔で俺を迎えてくれるえみに、俺のが年上なのについ甘えちまう。

この笑顔がないと俺は間違いなくEXILE MAKIDAIでいられない。

それくらい大事な存在だった。


「えみもお疲れさま」


俺がそう言うとフワリと微笑んでまたキッチンに立つ。

いつもと何も変わらない光景。

この当たり前な光景が好きで安心できて…

でもなんかちげぇ。


「えみ?」


キッチンに立つ彼女は至って普通だ。

でも何かが違う。

部屋を見回しても何時もながらに綺麗にしてくれてて。

俺が恥のないように服も書類もきちんと整えられている。

でもその顔が疲れて見えて。

一般人のえみにだって芝生は違えど戦場はあるはずだ。

それは彼女の我慢強い性格と比例するかのよう、俺には何一つ降りてこない。

でもそれを気づいて分かってあげられる関係でないと、俺たちに未来なんて見えないんじゃないだろうか。

彼女が何も言わないんじゃなくて、何も言えなくさせてしまっているんじゃないだろうか…。

それは困る。

そーいうことは極力話してもらわないと。

男なんて女の気持ちに気づけない馬鹿な生き物だから。


「えみ…」


いそいそと酒のつまみを準備するえみを、その後ろに回ってそっと抱きしめた――――――


「眞木…さん?」


吃驚したえみの声に、彼女の首に顔を埋めるようにギュッと更に強く抱きしめる。

カタンと手を止めて俺の腕にそっとえみの手が重なった。

ちょっとひんやりした小さな手。


「お疲れさま。頑張ってるね…ありがとう」


心からそう言った。

えみはしばらく黙っていたけど、小さな肩を震わせて「眞木さん…」俺を呼ぶ。

くるりと身体を反転させると目を真っ赤にして涙を堪えていて。

やっぱりって。


「いつも一人で戦わせてごめんね」


俺の言葉に堪えきれない涙がポロッとえみの頬を伝った。

その涙を指で拭ってあげるも、次から次へと溢れてしまう。

だからフワッと正面から抱きしめると小さく嗚咽が聞こえた。


「ごめんなさい」

「いいんだって、俺の前でならいくらでも泣いて。仕事頑張りすぎなんじゃない?人の為に色々するのは素晴らしいことだけど、えみはもう少し俺に我が儘言ってくれていいんだけどなぁー」


ポンポンって子供をあやすみたいに背中を軽く叩く。

こんなにも我慢させちゃってる自分も情けないし、俺もえみに甘え過ぎてたことを反省しなきゃだ。

泣いて言葉が出ないえみをそれでもずっと抱きしめていた。


「俺がMAKIDAI続けられるのって、えみが傍にいてくれるからだってこと、忘れないで。俺えみに甘え過ぎちゃうことばっかだけど、えみとの未来もちゃんと見てるから、信じてくれる?」


頬を包み込む手で視線を合わせると、震えながら「うん」って笑った。


「よし!今日は先に風呂入っろか!一緒に入ろ」


滅多に一緒に入ることのない風呂だけど、今日はもうそういう気分で。

だから「一緒に?」困ったように聞くえみの首に腕を回してちょっと強引なキスをおとす――――――


「そ。一緒に」


唇を離してそう言うと、真っ赤な顔でえみが微笑んだんだ。

やっぱり俺、この笑顔が最高に好きだって確信した。

とりあえず、酒より先にえみのこといただいちゃうけどね!




*END*

Special Thanks Love EMI