お前だけ見てた

小さい頃から女に不自由したことはなかった。

だいたいの女が俺を好きになる。

だからなのか、どいつもこいつも面白みがなくて結局長続きなんてしなかった。

ただ一人を除いて…――――――




ポロン…と鳴ったのは俺じゃなくて直人のスマホ。

飲み屋のカウンターでそれを見て苦笑いの直人。

またか…そう思った。


「てっちゃんごめんちょっと行ってくる」

「ユヅキ?」

「うん。潰れたみたい…迎え行ってくるわ」

「それどこ?」

「え?」


直人はスマホを見直して小さく口を開いた。

俺を真っ直ぐに見つめて言ったんだ。


「このビルの隣だてっちゃん」




お気に入りの直人は事あるごとにユヅキが潰れた時に呼び出されていて。

最近思うんだ―――――マジでユヅキ、直人の事好きなんじゃねぇの?って。

直人について隣のビルのバーに入ると奥のソファーに深く寄りかかっているユヅキが目に入る。

その周りには一緒に飲んでいたであろう後輩たち。


「隆二」


直人の声に手前にいた隆二が立ち上がって素早くこっちに歩いてきた。

その表情はちょっと困り果てたような顔で。


「直人さん、すいません。自分がトイレ行った隙に…」


隆二の視線の先にはぐったりしたユヅキがいて。

ユヅキの隣には登坂が座っている。


「あっ、直人ー!直人隣ぃ――」


完全酔っ払いのユヅキが俺に気付くこともなく直人の腕を引き寄せて隣に座らせた。

その瞬間ギュッと直人の胸に顔を埋めて抱きつくユヅキ。


「遅いよ直人…」


グリグリって頭を直人に押し付けて…


「ユヅキさん、大丈夫だから…」


ポンポンってユヅキの背中を撫でる直人。

おいおい、どーなってんの?

俺の存在二人とも完全無視かよ?


「たかのりの奴調子にのってさぁー」

「説教しとくから…」

「気持ち悪いよ直人…」


涙目のユヅキは直人を見つめて頬に手を添えると、ゆっくりと近づいていく。


「ちょっと!」


慌てて直人に近づくユヅキを止めると、その視線を俺に向けて思いっきりユヅキの目が開く。


「なんで!?なんで哲也もいるの!?」


怒りの矛先は俺…というよりも直人で。

それ以前にすげぇ腹立つ!!


「んなことどーでもいい。つーかユヅキマジで直人なの!? 」

「やだ、離してっ」


俺が伸ばした腕を払うみたいにユヅキが更に直人に抱きついて。

それにまた余計に腹が立つ。

直人がどうとかそんなんじゃなくて。


「お前何やってんだよ!しっかりしろよ!」


つい大きな声を出してしまった。

一瞬シーンとなったこの場。

ジロっと直人を見つめていた瞳を俺に向けたユヅキのその目からポロッと涙がこぼれ落ちたんだ。

―――――なんで?


「ガンちゃんに酔ってキスされたのユヅキさん…」

「は!?」


ちょうど俺の前にトイレかどっかにいたのか岩田が戻ってきて…

俺は岩田の胸ぐらを掴んで拳を思いきり投げつけた。

ドカッとフロアに腰を落とす岩田。

口はしを手で拭っていて。


「てっちゃん!」


直人の声が俺を呼んだけど…


「酔ってるからっててきとーやってんじゃねぇよ!ユヅキのこと泣かせやがって!」


肩で大きく呼吸を繰り返す俺に直人がユヅキを離してそのまま俺に差し出すように背中を押した。

目の前で動揺したユヅキが俺を見ていて。


「やだ直人。早く送って」


それでも直人を振り返るユヅキにも腹が立って。


「けどてっちゃん」

「嫌よ哲也なんて。あたしのこと好きでもないのに…」

「馬鹿じゃねぇのユヅキ…」


そう言った俺は躊躇しているユヅキの腕を引き寄せた。


「好きに決まってんだろ!お前だけみてたんだよっずっと!」


こんなみんなのいる前で告白なんてありえねぇと思いながらも、そんなことどーでもいい気もして。

ユヅキが手に入るならそんなの二の次で。

俺の言葉に震えながら泣き出すユヅキをギュッと抱きしめた。


「ユヅキみたいな掴めない奴初めてだよ。でも…それでも俺お前がいい」

「…ばか」


一言呟いたユヅキは直人じゃなくて俺の胸に顔を埋めてくれた。

この先ずっとこの笑顔を守ろうって一人誓ったんだ。





*END*

Special Thanks Love AOI